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ショパン、前奏曲集。 [2017]

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国民楽派のスターたちを輩出したチェコに、遅れて来た音楽大国、ロシアと、東欧の音楽は、ローカルながら、実に表情豊かで、西欧とは一味違うおもしろさに充ち満ちている!ところで、チェコとロシアのその間、ポーランドは?盛りだくさんの両隣に比べると、何だか凄く視界が悪い。というのは、クラシック界切ってのスター、ショパン(1810-49)の存在があまりに大き過ぎるからか... 前回、聴いた、今年、生誕200年のメモリアルを迎えるモニューシュコ(1819-72)がいて、ヴァイオリンのヴィルトゥオーゾ、ヴィエニャフスキ(1835-80)がいて、首相にもなったパデレフスキ(1860-1941)に、異才、シマノフスキ(1882-1937)、それから、モダニスト、ルトスワフスキ(1913-94)に、クラスターのペンデレツキ(b.1933)、アンビエントなグレツキ(1933-2010)などなど、丁寧に見て行けば、実に多彩な面々が彩るポーランドの音楽でありまして... かえって、ショパンという大看板は、邪魔?なんて言ったら怒られるか?いや、そもそも、ショパンは、ポーランドの作曲家なのだろうか?改めて、そのルーツ、人生を紐解いてみると、ポーランドとばかりと言えないような気がして来て...
ということで、ポーランド、国民楽派の顔、モニューシュコに続いて、ポーランドの大看板、ショパン。グルジア出身のピアニスト、ニーノ・グヴェタッゼによる、"Ghosts"と銘打たれた異色のショパンの前奏曲集(Challenge Classics/CC 72768)を聴く。

ショパンは、フランスとポーランドのハーフ... その前半生はポーランドで過ごし、後半生はフランスで過ごしている。ショパン・コンクールが象徴するように、ポーランドは国を上げてショパンをナショナリスティックなアイコンとして売り出しているわけだけれど、半分はフランスの作曲家とも言えなくもない。もちろん、ポーランド生まれだし、ポーランドで音楽を学んでいる。そして、ポロネーズやマズルカに象徴されるように、ショパンの音楽には、ポーランドの民俗音楽がしっかりと刻まれている。まさに、国民楽派の端緒とも言える存在である。が、ショパンにフランスは欠かせない... 父、ニコラ(1771-1844)は、フランス東部、ロレーヌの出身で、ひょんなことからポーランドに渡り、ポーランド分割に反対するコシチュシュコの蜂起(1794)に加わるなど、フランス人にして、ポーランドへの共感を示した人物。けれど、そんなニコラがポーランドで生きて行く糧は、フランス語教師... ショパンは、ポーランドに生まれながらも、フランス語が常にすぐ傍にある生活を送っていた。やがて、列強がぶつかり合う、19世紀、ヨーロッパの困難な状況(1830年、ポーランドでは、パリの七月革命の影響が伝播し、十一月蜂起が発生... )に巻き込まれ、1831年、父の故国、フランスへと渡るショパン... 以後、パリを拠点とする。しかし、「19世紀の首都」、パリが、そこでの成功こそが、ショパンをクラシックのスターへと押し上げる。
ということで、グヴェタッゼの弾く、前奏曲集(track.1-24)を聴くのだけれど... 改めて、ショパンの全24曲の前奏曲と向き合ってみると、そこにポーランドのローカル性は、あまり、感じられない。モニューシュコのオペラを聴いた後だと、余計に... というより、シューベルト(1797-1828)を思わせる瑞々しさ、シューマン(1810-56)に通じるメランコリーが漂って、思いの外、ドイツ―オーストリアの音楽との近さを感じる。それは、ドイツ―オーストリアに寄った音楽というより、最新の音楽としてのドイツ―オーストリア... パリへと移る前、ベルリンへと旅し(1828)、ウィーンで活動(1829-31)した若きピアニストが感じ取り、吸収した新しさなのだろう。そういう新しさに注目してみると、ショパンの音楽に、ニュートラルなものを見出す。ポーランドの大看板としてではなく、19世紀前半の若々しいロマン主義そのものが響き出す。もちろん、"前奏曲"という性格もあるのだろうけれど、前奏曲という、ある意味、抽象的な在り様だからこそ、ポーランドのショパンではない、ひとりの作曲家、ショパンの素の音楽が抽出されるよう... また、そういう素のショパンの佇まいにが、とても新鮮で、今さらながらに魅了されてしまう。一方で、前奏曲集の後で取り上げられるワルツ(track.26-28)と、スケルツォ(track.29)では、東欧が感じられ... オーストリアの民俗舞踊に端を発するワルツ本来のローカル性、よりダンサブルなスケルツォの性格が、ショパンのポーランド性を呼び覚まし、前奏曲と絶妙なコントラスを聴かせるから、おもしろい。
ところで、グヴェタッゼは、この前奏曲集のアルバムに"Ghosts(幽霊たち)"というタイトルを付けている。それは、ちょっと、大胆な気がするのだけれど、ポーランドのショパンではない、前奏曲の抽象性に触れると、"Ghosts"であることが、凄く沁みて来る。いや、全24曲、ひとつひとつが、どこかおぼろげに立ち現れて... そのほとんどが、2分に満たず、1番なんて、わずか38秒!この短さが醸し出す刹那が、どこか幽霊っぽい。ぱっと立ち現れて、留まらない... 定番の15番、「雨だれ」(track.15)なんて、まさに、だ。繊細に雨だれを表現して、雨だれの儚げな姿が引き立てられれば、ゴーストそのものよう... 構築的な音楽とは違う、瑞々しいヴィジョンが次々に鍵盤上に投影され、それが、また次々に流れて行き、その流れの中に、何とも言えない詩情が沸き上がり、霧のように全体を包む。そうして見えて来るのは、象徴主義や、印象主義という未来... 前奏曲集が作曲されるのは、ショパンがパリに移ってしばらくして、サンドと出会った頃で、全曲が完成されるのは、サンドと旅したマヨルカ島にて、1839年... 旅そのものは、惨憺たるものだったらしいけれど、前奏曲集から流れ出す瑞々しいヴィジョンのうつろいを前にすると、旅の魔法を感じる。いや、"Ghosts"なのだろう。けして掴むことのできない幻としての旅であり、愛であり... いろいろなことを喚起させられるショパンの前奏曲集だった。
そんな体験をもたらしてくれたグヴェタッゼ... ウーン、"Ghosts"というタイトルが効いているのか?ジャケットに写るグヴェタッゼの姿は、二重写しのようになっていて、幽霊っぽく見せて、ちょっとギミック?一方、演奏に関しては、特に幽霊っぽいわけでもなく... というより、きちんと調律されたピアノに、幽霊っぽい演奏なんて、あり得ないのだけれど、どういうわけか、常にどこかでゴーストを意識させられる。いや、聴けば聴くほどイマジネーションを掻き立てられてしまう。それは、とても不思議な感覚で... そんな感覚を生み出す、グヴェタッゼの澄んだタッチ!澄んでいるからこそ、深く音楽を掘り下げられるようで、また深いものだから仄暗くなり... 清廉でありながら、やがて闇に包まれるようなミステリアスさがたまらない。いや、魅入られてしまったように、聴き入ってしまう。一曲一曲が短く、ライトで、スーっと心地良く聴けるショパン、前奏曲だったはずが、聴き進めるにつれ、何かただならないスケール感を見せ始め、気が付いたら、夜の凪いだ大洋に、ぽつんと小舟で浮いているような、静けさと心許無さを味わう。ここはどこだろう?ショパンを聴いていたはずだけれど... そんな問いが頭を過ると、自らがゴーストになってしまったような気分になる。

Frédéric Chopin Ghosts Nino Gvetadze

ショパン : 前奏曲集 Op.28
ショパン : 練習曲 第10番 変イ長調 Op.10
ショパン : ワルツ 第9番 変イ長調 「告別」 Op.69-1
ショパン : ワルツ 第3番 イ短調 「華麗なる円舞曲」 Op.34-2
ショパン : ワルツ 第10番 ロ短調 Op.69-2
ショパン : スケルツォ 第2番 変ロ短調 Op.31

ニーノ・グヴェタッゼ(ピアノ)

Challenge Classics/CC 72768




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