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ゴットシャルク、ピアノ作品集。 [2015]

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クラシックにおいて、アメリカが存在感を示すのは20世紀に入ってから... ジャズ・エイジの申し子、ガーシュウィン(1898-1937)、マシーン・エイジの"アンファン・テリヴル"、アンタイル(1900-59)が、第一次大戦後のヨーロッパで旋風を巻き起こし... シェーンベルク、ストラヴィンスキー、ミヨーら、第二次大戦により、多くの亡命者を迎え入れたアメリカは、ヨーロッパの最新の音楽を、直接、学ぶ機会を得て、第二次大戦後、堂々、ヨーロッパに喧嘩を売ってみせたケージ(1912-92)を登場させるまでに!わずか半世紀の間に、アメリカの音楽は恐るべきスピードで成長を遂げたわけだ。が、20世紀以前のアメリカは?なかなか見えて来ない... それもそのはず、実に、実に素朴な状態が続いていた。というのも、アメリカを築いた人々は、音楽を忌避したピューリタンたち。ヨーロッパとはまったく異なる音楽環境が、長い間、続いていたわけだ(そうした抑制的な中でも育まれた音楽はあって、その歩みが、また、実に、実に興味深かったりする!)。が、規格外の人物もおりました!
1842年、パリに渡り、やがてショパンにもその才能を認められたピアノのヴィルトゥオーゾ、今年、没後150年を迎えるゴットシャルクに注目!ということで、スティーヴン・メイヤーの弾く、ゴットシャルクのピアノ作品集(NAXOS/8.559693)を聴く。

ルイス・モロー・ゴットシャルク(1829-69)。
アメリカ南部、ルイジアナ州(フランスの植民地として始まり、一度、スペインに割譲されるも、ナポレオンにより取り戻され、ゴットシャルクが生まれる26年前、1803年、アメリカ合衆国に売却された... )、最大の都市、独自のクレオール文化(植民地時代、フランスやスペインから渡って来た移民、クレオールが育んだ... )が息衝く歴史ある街、ニューオリンズで、イギリスから渡って来たユダヤ系の裕福な商人の父と、フランスからの独立革命により混乱していたハイチから逃れて来たフランス系の母の下、生まれた、ゴットシャルク。幼くして音楽の才能を見せ、5歳になると、ニューオリンズのセント・ルイス大聖堂(カトリックの大司教座であり、ニューオリンズのシンボルとも言える建物... )のオルガニスト=聖歌隊長に付いて音楽を学び始めると、7歳でオルガニストの代理としてミサで演奏したというから、タダモノではない。さらに、11歳で、ピアニストとしてもデビューを飾り、1842年、13歳の時に、本場、パリへ留学を果たす。が、当初、入学を目指したコンセルヴァトワールへの入学は適わず(そもそも外国人は入学できなかったはず... )、パリで高名だったピアノ教師、スタマティに師事(サン・サーンスも同時期に師事していた... )し、研鑽を積むと、1845年、ショパンのコンチェルトなどを弾き、パリ・デビューを大成功で飾る。この時の演奏に触れたショパンは、「この若者は"ピアニストの王"になるであろう... 」と感想をもらしたのだとか... 以後、パリを拠点に活躍し、さらにはクレオール風のピアノ作品で一世を風靡。スペイン女王の熱烈な歓待を受け、しばらくマドリードの宮廷で過ごした後、1853年、アメリカへ凱旋帰国。しかし、ヨーロッパでヒットしたゴットシャルクのクレオール・スタイル、北米の主流、アングロ・サクソン文化圏の人々(ピューリタンの末裔たち... )には受けが悪く、中南米諸国にも活躍の場を広げつつ、北米の聴衆の趣味に合わせて作風も広げ、ピアノのヴィルトゥオーゾとして、南北アメリカを精力的にツアーして回った。が、1865年、ツアー先、カリフォルニア、オークランドの神学校の女学生との間でスキャンダル(濡れ衣みたいだけど、そもそもだらしなかったみたい... )が報じられてしまい、南米へ逃げ出すはめに... が、めげることなく、ますます精力的に活動(北米より、南米の気質に合っていたみたい... )。ブラジル、リオ・デ・ジャネイロを拠点とすると、「モンスター・コンサート」なる大規模な演奏会を繰り出す!しかし、その規模が祟ったか、体調を崩してしまい、1869年、40歳という若さで、この世を去る。
という、ゴットシャルクのピアノ作品を聴くのだけれど、その1曲目、「バンジョー」は、1855年、アメリカに帰国して間もない頃の作品。でもって、ゴットシャルクのクレオール・スタイルを知る佳作。そのタイトルの通り、陽気にバンジョーが掻き鳴らされるような表情があって、ラグタイムを思わせる軽快なリズム(この先に、ニューオリンズ・ジャズがあるのだろう... )に彩られるキャッチーな音楽は、後半、フォスターの草競馬のテーマが顔を覗かせ、楽しませてくれる。そういう点で、実にライトな作品なのだけれど、その草競馬のテーマが、最後、まさにバンジョーを思わせる響きを放ち、さらにそのイメージが乱反射するように展開されて、魔法めいて美しい!そこには、ヴィルトゥオーゾ、ゴットシャルクの、ヨーロッパを魅了した腕前を感じさせる。2曲目は、その前年の作品、北米の聴衆の趣味に合わせたセンチメンタル極まる作品、「最後の希望」(track.2)。リストを思わせる繊細な美しさに包まれて、北米の聴衆のヨーロッパへの渇望を満足させる仕上がり... いや、クレオール・スタイルばかりじゃありませんよ!というゴットシャルクの器用さを思い知らされる。てか、そのヨーロッピアンな匂いの本物感たるや!いや、訳知り顔の北米のスノッブたちに対するドヤ感が素敵。本当に美しくて、美し過ぎて、その美しさの中に、ちらっと毒を感じるのです。ウーン、本場、パリ仕込みの洗練!ショパンがまだ健在だった頃、古き良き時代のピアニズムが、大西洋を渡って、少し濃くなって、ヨーロッパ以上に純度を増したようで、魅惑的...
という、ゴットシャルクのピアノ作品集を聴いて、感じるのは、「フランス」っぽさ... パリで研鑽を積み、活躍したのだから、当然ではあるものの、それ以前、ゴットシャルクそのものを生み育てた北米におけるクレオール文化... 旧フランス領、ヌーヴェル・オルレアンと呼ばれていたニューオリンズに漂う「フランス」。またその「フランス」は、本土では失われてしまったフランス革命以前、アンシャン・レジームの匂いを残しているようで... ゴットシャルクの音楽からは、フランスにして、失われてしまった「フランス」の儚げな記憶がこぼれ出すような感覚がある。例えば、パリ時代、1849年に作曲された、トマのオペラ『夏の夜の夢』によるカプリース・エレガント(track.6)... オペラのテーマを繊細にピアノに落とし込んで、美しく変奏して生まれる感触は、どこかクープランを思い起こさせて... 「過ぎし時の反映」(track.8)の冒頭などは、クープランそのもの?ピアノでありながら、クラヴサンを思わせる装飾性に彩られ、ショパンやリストのロマン主義とは一味違う、独特な繊細さを見せるゴットシャルクの音楽。19世紀における、ロココの頃のギャラントのリヴァイヴァル?そんな風に捉えると、おもしろいのかも... 最後、メイヤーのアレンジで聴く、1番の交響曲、「熱帯の夜」(track.9)では、18世紀的な繊細さが、印象主義的な効果も引き出して、ゴットシャルクの音楽に脱ロマン主義的な性格を炙り出す?いや、ゴットシャルクの音楽はただならない!そして、その背景となったクレオール文化にも興味を覚えずにはいられない。
そんなゴットシャルクの音楽を、また見事に引き立てるメイヤーのピアノに魅了されずにいられない。繊細なナンバーを丁寧に並べて、ゴットシャルクのイメージを瑞々しく整えつつ、丁寧かつクリアなタッチで、そのイメージをますます引き立てて行く!いや、思いの外、淡々とスコアを捉えていて、ガツンと聴き所を作ろうなんて素振りはまったく見せないものの、抑制された表情に、アンシャン・レジームを思わせる品の良さだったり、ニューオリンズの艶っぽさだったり、パリの粋な素振りだったりが紛れ込んで、さり気なく、魅力的。ゴットシャルクの音楽は、一見、サロン向けで、ショパンやリストに比べれば、芸術音楽としての弱さを否めない... ところを、徹底して美しさを貫き、貫いた先に、ゴットシャルクの背景にある歴史や伝統をそこはかとなしに響かせて、もうひとつ違う風景を見せてくれるようなメイヤーのアプローチ。いや、今さらながらにゴットシャルクのおもしろさに感じ入る。って、まさに、メモリアル・イヤーなればこそだなと... アメリカの出身でも、いわゆるアングロ・サクソンの北米とは違ったクレオール文化を背景とする独特な立ち位置が、ゴットシャルクの存在を微妙なものとしているのかもしれない。が、その微妙さこそ、ゴットシャルクの魅力だなと、再認識。

GOTTSCHALK: A Night in the Tropics

ゴットシャルク : グロテスクな幻想曲 「バンジョー」 Op.15
ゴットシャルク : 瞑想のレリジュース 「最後の希望」 Op.16
ゴットシャルク : カプリース 「風刺」 Op.59
ゴットシャルク : 子守歌 Op.47
ゴットシャルク : ブラジル国歌による勝利の大幻想曲 Op.69
ゴットシャルク : トマのオペラ 『夏の夜の夢』 による カプリース・エレガント Op.9
ゴットシャルク : 失われた幻想 Op.36
ゴットシャルク : 過ぎし時の反映 ‐ 夢 Op.28
ゴットシャルク : 交響曲 第1番 「熱帯の夜」 〔メイヤーのアレンジによるピアノ版〕

スティーヴン・メイヤー(ピアノ)

NAXOS/8.559693




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