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ランディーニ、心の目。 [2019]

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西では百年戦争、東ではオスマン・トルコの侵攻、何よりペスト禍、さらにはローマ教会の分裂=シスマと、様々な災厄に苛まれた14世紀のヨーロッパ。まさに"災厄の14世紀"なのだけれど、丁寧に見て行くと、それら災厄による破壊があって、また新たな時代は切り拓かれており... 中世の文化を主導したフランスの失墜が、新たな場所で、新たな文化が芽吹く機会を与えたとも言える。その代表が、イタリア!長らくドイツの影響下(ドイツ王たる神聖ローマ皇帝は、イタリア王も兼ねていた... )に置かれ、皇帝派=ギベリン、教皇派=ゲルフの激しい対立を招き、政治的には、"災厄の14世紀"以前こそが、災厄の日々だったとも言えるのかもしれない。が、13世紀に、皇帝派の旗頭であるホーエン・シュタウフェン朝が断絶(1268)。14世紀に入ると、アナーニ事件(1303)、アヴィニョン捕囚(1309-77)により、教皇の権威も失墜。すると、イタリアには政治的な空白が生まれ、より自由な気分が醸成されようとしていたか?それを象徴するように、ダンテ(1265-1321)、ペトラルカ(1304-74)、ボッカチョ(1313-75)らが登場し、新たな文学を興る。一方、絵画では、チマブーエ(ca.1240-1302)、ジョット(ca.1267-1337)らが登場、ペスト禍の最中にありながら、ルネサンスは、すでに準備されていた。
そして、音楽もまた... フランスの多声音楽の影響を受けながら、後のイタリア音楽のメロディックなあたりを先取りするトレチェント音楽が花開き、次なる時代、ルネサンスの音楽の成立に刺激を与えることに... そんなトレチェント音楽、クリストフ・デリーニュのオルガネットで、ラ・レヴェルディが歌う、ランディーニの作品集、"L'Occhio del Cor"(ARCANA/A 462)を聴く。

トレチェント音楽、トレ(三)-チェント(百)、イタリア語で"300"を意味し、1300年代の音楽を指す。つまり、"災厄の14世紀"の音楽... フランスがゴシックのポリフォニーを育て、中世の楽壇を主導していた頃、イタリアは単声に留まり続けていたものの、14世紀に入り、アルス・ノヴァが中世の前衛として席巻し始めると、フランスの影響下、多声音楽の導入に舵を切る。が、長らく単声に留まって、メロディーに対するセンスは鍛えられていたか、よりメロディックにポリフォニーを織り成して見せて、独自の感性を示したイタリア、トレチェント音楽。その代表的な作曲家が、フランチェスコ・ランディーニ(ca.1325-97)...
かつては画家の息子で、甥っ子には著名な人文主義者がいる、ということになっていたが、現在では、それら全てが否定される。というのも、そうした人々と関連付けられる根拠となっていた「ランディーニ」という名前自体が怪しくなってしまったから... で、今では、フランチェスコ・ダ・フィレレンツェ(フィレンツェのフランチェスコ)、フランチェスコ・デッリ・オルガニ(オルガニストのフランチェスコ)、フランチェスコ・イル・チェーコ(盲目のフランチェスコ)と呼ばれるのが、より的を射た名前のよう。幼い頃、天然痘に罹り、失明するも、オルガン奏者として才能を開花させ、フィレンツェの修道院、教会でオルガニストとして活躍している。
そして、もうひとつ、ランディーニの存在を特徴付けるのが、詩才。キプロス王から月桂冠を贈られた(つまり、桂冠詩人... )というから、詩人としても一流。でもって、その詩を作曲し、自ら歌い、フィレンツェ市民を虜にしたらしい。いや、ランディーニは、トレチェントのスティーヴィー・ワンダー?現在、ランディーニの作品は、世俗歌曲ばかりが残されている。教会音楽も書いたという記録はあるらしいが、世俗歌曲のランディーニというのが、当時のフィレンツェの認識だったのかもしれない。で、ランディーニが残した世俗歌曲のほとんどが、2声、3声によるバッラータ。ランディーニは、バッラータ作家と言えるのかも...
そのバッラータ... 言葉の響きから、ついリリカルなバラード(ballade)を思い起こしてしまうのだけれど、バッラータ(ballata)は、「踊る」を意味するイタリア語、"ballare"から派生した言葉(ちなみに、バレエの起源、ルネサンス期のイタリアで踊られたダンス、バレッティもそう... )。ということもあって、ランディーニのバッラータは、どれも軽やかなリズムを刻んで、思い掛けなくポップ!フランスのアルス・ノヴァの尖がった感覚、中世の前衛とは一線を画す。このあたり、宮廷のエリートではなく、より幅広い人々に向けられた音楽だったことを裏付けるのかもしれない。いや、ますます以ってして、トレチェントのスティーヴィー!
ということで、"L'Occhio del Cor"の1曲目、「もう出かけるのだが、ご一緒しませんか愛しき貴婦人よ」。まず、タイトルがチャラい!でもって、そのチャラさを、そのまま表現するかのような調子の良いリズムを刻むリュートとハープに乗って、飄々とヴィエールが奏でられて、ユーモラス。そこに、ソプラノが歌い出すと、浮世離れした、フワフワとした雰囲気で以ってアンサンブルを率いて、2世紀後のモノディーの登場を予感させるのか... そうして生まれるテイストは、アヴァン・ポップ?いや、マショーの凄い音楽を聴いた後だと、余計にトレチェント音楽の軽やかさ、軽やかさを生むシンプルさが、興味深い。
一方、3曲目、「この愛はどのようなものか、天がもたらしたこの愛は」(track.3)では、器楽は加わらず、女声2人と男声による声のみの3声で歌われ、よりポリフォニーが活きて来る。そうして感じられるアルス・ノヴァからの影響... ランディーニが活躍したフィレンツェは、フランス贔屓だったらしいのだけれど、そのあたりも納得。女声3人で歌われる6曲目、「この魂は泣いてばかり、安らぐ暇もない」(track.6)では、女声のたおやかさが、フランス流のポリフォニーを融かすようで、次なる時代、デュファイ(1397-1474)を予感させて、魅惑的。いやまさに、ルネサンス・ポリフォニーへと至る道のひとつ...
そんな、ランディーニを美しく歌い上げるラ・レヴェルディ。女声を中心にしたアンサンブルが織り成す、澄んだハーモニーは、トレチェント音楽のメロディックさが紡ぎ出す瑞々しさを見事に引き出していて、惹き込まれる。で、ラ・レヴェルディのメンバーの凄さは、歌いながら巧みに楽器を奏でてしまうこと!歌では瑞々しく、楽器では小気味良く、このテイストのバランスが最高!トレチェント音楽の軽妙さと、イタリアならではの歌心をすでに感じさせるしっとりとした感覚、そのどちらもがしっかりと感じられて、綾なし、絶妙。下手に中世が強調されるのではなく、洗練を以って14世紀と向き合い、確かな魅力を引き出す。
そこに、デリーニュのオルガネットが、絶妙な味わいを加えて... 2曲目、「この貴婦人には、なんと多くの美が備わっているのだろう」(track.2)の序奏の渋さ... 5曲目、「情けをかけてくれることはあるまい、わたしの貴婦人が」(track.5)でのヴィルトゥオージティすら感じさせる妙技!オルガネットの素朴な音色にも、縦横無尽に表情を引き出して、見事。またそこに、フランチェスコ・デッリ・オルガニ(オルガニストのフランチェスコ)の姿を垣間見ることができるようで、とても印象的。しかし、フランスとは一線を画し、フランスからの影響があって、次なるルネサンスへとつながるサウンドのおもしろさたるや!

L'Occhio del Cor Francesco Landini La Reverdie

ランディーニ : もう出かけるのだが、ご一緒しませんか愛しき貴婦人よ
ランディーニ : この貴婦人には、なんと多くの美が備わっているのだろう
ランディーニ : この愛はどのようなものか、天がもたらしたこの愛は
ランディーニ : あなたのまなざしが、わたしの命を奪う
ランディーニ : 情けをかけてくれることはあるまい、わたしの貴婦人が
ランディーニ : この魂は泣いてばかり、安らぐ暇もない
ランディーニ : 目には大粒の涙、心には大きな苦しみ
ランディーニ : 不実な男を愛したために、わたしはなんと辛い思いを
ランディーニ : わたしの両目は、この辛い別れに
ランディーニ : 痛ましきこの両目は、ただ泣くばかり
ランディーニ : 教えてくれ、恋神よ、この緑の葉のあいだで
ランディーニ : なんと辛く感じるのだろう、この心は
ランディーニ : わたしは悪くないのに、あなたはその美しい姿を
ランディーニ : 死ぬこともでいないのか、ああ、あわれに傷ついた者よ
ランディーニ : 一目みたときから、あなたにお仕えしようと

ラ・レヴェルディ
クリストフ・デリーニュ(オルガネット)

ARCANA/A 462




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