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新しい時代を音楽で寿ぐ!山田耕筰のめでたい交響曲。 [before 2005]

感傷と、歓喜と、清新に彩られた、特筆すべきゴールデン・ウィークが終わりました。連休も終われば、現実に向かわねばならぬところではありますが、当blogは、まだもう少し、お祝いモード... 新しい時代、令和を音楽で寿ぐ!ということで、日本のクラシック=西洋音楽の草分けにして礎、山田耕筰の、めでたい交響曲を聴く。てか、交響曲がめでたいって、そう無い。例えば、交響曲の父、ハイドンの104番まである交響曲を振り返って、めでたそうなものを探すとすれば、「V字」?いや、あれは、ヴィクトリーの"V"ではなくて、ロンドンでハイドンの交響曲選集が出版されるにあたり、セレクションされた交響曲を"A"から順番にアルファベットを振った結果、22番目、"V"となったというだけの話しでして... おもしろいのは、「V字」だけが、振られたアルファベットを残しているという... いや、"V"だけ残ったということは、ある意味、ヴィクトリーなのかも?なんて、話しはともかく、山田耕筰です。「赤とんぼ」など、誰もがこの人の歌を歌ったことがあるだろうけれど、この「赤とんぼ」の強烈なイメージのせいで、作曲家としての全体像は見え難い。見え難いけれど、改めて見つめてみると、さすがは草分けにして礎!なかなかただならない存在... そして、めでたい!何と、日本人初の交響曲を書いた人物でありまして...
ということで、NAXOS名物、日本作曲家選輯のシリーズから、湯浅卓雄の指揮による山田耕筰の交響曲集を2タイトル... アルスター管弦楽団の演奏で、日本初の交響曲にして卒業制作、交響曲「勝鬨と平和」(NAXOS/8.555350)と、東京都交響楽団の演奏で、邦楽との大胆な融合を試みた異色の交響曲、長唄交響曲「鶴亀」(NAXOS/8.557971)を聴く。


めでたし、日本初の交響曲!「勝鬨と平和」。

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山田耕筰(1886-1965)。
明治19年、東京に生まれた山田耕筰。キリスト教の伝道活動に携わっていた父(旧士族出身で、破天荒な人だったよう... その破天荒の先にキリスト教もあったか?)の影響で、そのこども時代、傍らには常に音楽=讃美歌があった。が、10歳の時に父を失い、音楽とは程遠い場所で苦労した耕筰少年。15歳、姉が嫁いでいたイギリス人宣教師、エドワード・ガントレットのいる岡山に移ったことが転機に... 義理の兄、ガントレットは、耕筰を可愛がり、きちんとした教育を受けさせると同時に、讃美歌ばかりでなく、本格的な西洋音楽にも触れさせる。こうして始まった、作曲家、山田耕筰への道程... 16歳になると、神戸にあるミッション系の関西学院中学部に転校。合唱団に参加し、朝の礼拝ではオルガンを弾くまでに... 1904年には、とても音楽を学ぶ余裕などない中で、東京音楽学校(芸大の前身... )に入学。とうとう母も失い、学費を自ら用立てるため、様々な仕事をしながら苦学し、得意の英語を活かし、お雇い外国人の教授陣の通訳を買って出るなど、巧みに学生生活を乗り切り、1908年に卒業(1910年まで、研究科に籍を置いていた... )。1910年には、三菱財閥の総帥、岩崎小弥太の支援で、ベルリンへと留学。狭き門だった王立芸術アカデミーの作曲科に、見事、合格!ブルッフ(1838-1920)らに学び、作曲家としての一歩を踏み出す。そうして書かれた、1912年の作品=課題、序曲を、まず聴くのだけれど、この作品、日本人の手による記念すべき最初のオーケストラ作品。とはいえ、課題だけあって、わずか3分強。翌年には、パリで『春の祭典』(1913)が初演されるというのに、まるでメンデルスゾーンを思わせる優等生的なロマン主義が繰り出されて、微笑ましくすらある。いや、その率直な音楽との向き合い方に、妙に惹き込まれてしまう。初々しさもまた魅力... しかし、これが日本のオーケストラ作品の第一歩だったかと思うと、何とも言えず、感慨深い。
続いて、日本人の手による最初の交響曲であります!序曲と同じ、1912年、卒業制作として作曲されたのが、交響曲「勝鬨と平和」(track.2-5)。1楽章、冒頭の弦楽によって奏でられる序奏は、「君が代」が素になっているとのことだけれど、それっぽくもあり、そうでもなくて... というより、その雄大なテーマ、なかなか印象的で、ちょっと和風な感じもしなくもなく、やはり、日本初ということで、感慨を覚えずにはいられない。が、作品全体としては、見事に19世紀のロマン派の流儀に則り、まあ折り目正しいこと!若いのだから、もっといろいろ挑戦できたんじゃないかと思うのだけれど、そうはして来ない。けれど、その折り目正しさが、端正な祝祭の気分を醸し出して... 「勝鬨と平和」というタイトルは、日本に帰国してからの1914年、初演時に付されたよう(同年、第一次大戦が勃発!初演の一ヶ月ほど前、日本は、イギリスとともに、ドイツが中国に持つ租借地、青島を攻略している。ドイツに学んだ耕筰にとっては、何とも皮肉な話し... )だけれど、ある意味、様々な困難な中で音楽を学び、やがてベルリンへと辿り着き、その卒業制作に堂々の交響曲を書き上げたことは、耕筰にとっての勝鬨だったのだろう。何か、自らの卒業を祝うような晴れがましさがあって、これまた微笑ましい。で、アルスター管の演奏が、そういう微笑ましさを引き立てるようでもあり... オールド・ファッションな教科書的スタイルに、オリジナリティなど望めないものの、日本初の交響曲の誕生を、温かく見守るような演奏があって、何だかハート・ウォーミング。
という、交響曲の翌年、1913年、日本に帰国する前に書かれた2つの交響詩、「暗い扉」(track.6)と、「曼荼羅の花」(track.7)も取り上げられるのだけれど、こちらは、後期ロマン主義が意識され、象徴主義も滲むようなところがあり、オリジナリティが模索され始まっている。いや、卒業制作の交響曲から一年で、ここまで踏み込んで来ましたかと、またまた感慨深いものあり... 何より、確かな聴き応えがあって、交響詩として十分に魅力的。第一次大戦前夜、日本人の西洋音楽への理解は、加速度的に進んでいたのだなと... 何より、波乱の少年時代、苦しい学生時代を思えば、感動的ですらある。

YAMADA: Symphony in F major 'Triumph and Peace'

山田 耕筰 : 序曲 ニ長調 *
山田 耕筰 : 交響曲 ヘ長調 「勝鬨と平和」 *
山田 耕筰 : 交響詩 「暗い扉」 *
山田 耕筰 : 交響詩 「曼荼羅の花」 *

湯浅卓雄(指揮)
アルスター管弦楽団 *
ニュージーランド交響楽団 *

NAXOS/8.555350




トゥーマッチ!長唄+オーケストラで、「鶴亀」。

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1913年、耕筰は帰国する。当初の予定では、すぐドイツに戻るはずだったが、第一次大戦の勃発もあり、断念。以後、精力的に日本で活動... まず、岩崎小弥太が創設していた東京フィルハーモニー会の指揮者に就任。耕筰のために編成されたオーケストラを指揮し、ベルリンで作曲した交響曲「勝鬨と平和」、交響詩「曼荼羅の花」を発表(1914)。が、その矢先、耕筰の不倫スキャンダルが問題になり、自らが率いるオーケストラは解散(1916)。すると今度は劇場に活躍の場を見出し、劇伴や舞踏のための音楽を手掛ける。さらには、1917年末にアメリカへと旅し、ニューヨークで自作を披露。また、現地のジャポニスムに触れ、日本文化を再発見した耕筰は、日本にこそオリジナリティを探り始める。帰国するとすぐに日本語による歌曲に取り組み、北原白秋と交流。その詩に作曲し、「ペチカ」や「待ちぼうけ」といった、お馴染みのナンバーが誕生。さらに、山田耕筰の代名詞となる、三木露風の詩による「赤とんぼ」が作曲(1921)された。その年に書かれたのが、交響曲「明治頌歌」(track.2)。邦楽の篳篥を用いることで、和と洋の融合を試み、日本におけるクラシックを提示してみせる。いや、ベルリンでの交響曲「勝鬨と平和」から9年、ここまで来たかと、またまた感慨深く思ってしまう「明治頌歌」。その冒頭、まるでを聴くような、弦楽の美しく澄んだ響きにまず耳を奪われる!そこから、印象主義的な音楽が展開され、和風な彩りを添えるパーカッションがスパイスを効かせつつ、その表情付けに唸ってしまう。が、ワーグナー的な壮麗さ、リヒャルト・シュトラウス的な芳しさもあり、まるで屏風絵の霞みのように、和と洋の間を漂い、雅やかでロマンティックな音楽を綴る。で、篳篥は、後半、葬送行進を思わせる荘重な場面で登場。この交響曲に独特なインパクトを与える。という「明治頌歌」からさらに踏み込んだのが、まさにニッポン!異色の作品、長唄交響曲「鶴亀」。
「明治頌歌」からさらに9年、1930年に作曲された「鶴亀」(track.1)は、タイトルの通り、唐の宮廷の新年の祝賀で、鶴と亀が舞い、皇帝の長寿を祈念するという長唄『鶴亀』(1851)に、オーケストラの伴奏を付けてしまう大胆な作品。ぶっちゃけ、蛇足?いや、長唄だけでも十分に聴かせるところに、オーケストラを重ねてしまうというトゥーマッチ!もはや、和と洋の融合なんて、理屈っぽいことは考えず、トゥーマッチで攻めて来るあたり、ある意味、日本的なのかも... しかし、このトゥーマッチ、よくよく見つめてみれば、ただならない... 義太夫の独特な節回し(日本版、シュプレッヒ・ゲザング?)に、三味線、鳴り物の、響きこそ抑制的でありながら、妙にカラフルで小気味良いサウンドは、西洋音楽の感性に融け込まない、きつい個性がある。それを、オーケストラと連動させるのだから、並大抵のことではない。丁寧にオーケストラの演奏を追ってみると、実に精緻な動きが窺えて、作曲家、山田耕筰の確かテクニックを見出せる。長唄のメロディーを巧みにオーケストラに引き込みつ、拡張し、義太夫の歌いに絶妙に反応しながら、味のある音楽を展開。ナンジャアコリャア?!という第一印象の後で、ジワジワ来る凄さ... 何より、良い具合にお祭り気分が盛り立てられて、よりアジアンな感じがおもしろい!
という、一筋縄には行かない音楽を、器用にこなす都響!いやはや、お疲れ様です。言うなれば、浮世絵に油彩で縁取りするようなもの... 難しいミッションを、絶妙にこなして、邦楽勢を邪魔することなく、丁寧に耕筰の音符を鳴らして行く。そのあたり、日本のオーケストラの律儀さを再確認させられる思い。一方で、交響曲「明治頌歌」(track.2)、最後に取り上げられる舞踏交響曲「マグダラのマリア」(track.3)では、その律儀さが澄んだサウンドを繰り出して、とても瑞々しい!で、そうした演奏を引き出す、湯浅の明晰な指揮ぶりも見事。そこはかとなしに感じられる、作曲家、山田耕筰への共感と、なればこその丁寧なアプローチは、駆け出しの頃の作品を温かく、脂が乗っての大胆な作品では、その大胆さから味わいを抽出して、巧い。2タイトル合わせて、山田耕筰再発見には、最高のアルバムとなっている。

YAMADA: Nagauta Symphony "Tsurukame"

山田 耕筰 : 長唄交響曲 「鶴亀」 *****
山田 耕筰 : 交響曲 「明治頌歌」 *
山田 耕筰 : 舞踏交響曲 「マグダラのマリア」

宮田哲男(義太夫) *
東音味見亨(三味線) *
長唄合奏団 *
三味線合奏団 *
囃子合奏団 *
溝入由美子(篳篥)  *
湯浅卓雄/東京都交響楽団

NAXOS/8.557971




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