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テレマンのファンタジア。 [2017]

秋バテ?2018年バテ?なんて言っていたら、そもそも21世紀にバテてないか?と思えて来た。高度情報化社会の、あらゆるものがつながるプレッシャー... 便利になった一方で、そこはかとなしに我々を縛り上げているものがあるような... なんて言い出したら、20世紀後半、高度産業化社会の即物的なスピード感にも、すでに追い立てられていたなと... 失われた云十年というもの自体が「バテ」だったような気がして来る。そういう「バテ」の歴史を振り返れば、「癒し系」クラシックへの注目や、ヒーリング・ミューシックの登場が、もの凄く腑に落ちる。20世紀末に始まる「癒し系」としてのクラシックの再ブレイク、その前にはグレゴリオ聖歌ブームがあったことを忘れるわけには行かない。その準備を果たしたのが、1970年代に遡るニュー・エイジ、アンビエント・ミュージック... 音楽に癒しを求めた道程には、近代社会、現代社会が歪んで行く様が反映されていたのだろう。そして、癒しを過去の音楽、古典=クラシックに求めるに至ったわけだ。「癒し系」クラシックは、実は、実に、意義深い。
ということで、10月は、「癒し系」で癒される... マジカルな中世から、バロック、テレマンのファンタジアへ!フランソワ・ラザレヴィチのフルートで、無伴奏フルートのための12のファンタジア(Alpha/Alpha 267)と、ルイジ・デ・フィリッピのヴァイオリンで、無伴奏ヴァイオリンのための12のファンタジア(CHALLENGE CLASSICS/CC 72679)の2タイトルを聴く。


芳しい春の野に足を踏み入れてくような、フルートによるファンタジア。

Alpha267.jpg
最初の一音が空気に放たれた瞬間、理屈抜きに惹き込まれる。ラザレヴィチが吹くフルートの音は、ぱっと蕾が開くような存在感があって、芳しい。けれど、次の瞬間、ふわっと空気に溶けてしまう。存在感がありつつの儚さ、夢幻のように次々に音が放たれて、何か魔法でも見るかのよう。モダンの金属的な響きとは違う、ピリオドの、木製ならではの、たっぶりとポエジーを含んだ響きなればこそのテイスト... 残響を活かした優秀録音もあって、木製のポエジーは、ふわっと空気に溶けても、消えてしまうのではなく、まるで空気に彩色して行くかのよう。ラザレヴィチが吹けば吹くほど、音楽はカラフルに感じられ、その余韻はブルーミン!たった1本の笛が、やがて花々が咲き乱れる春の野の空気を生み出す。そして、そんな空気に包まれる... ラザレヴィチによる12のファンタジアは、音楽を聴くというよりも、芳しい春の野に足を踏み入れてくような感覚がある。何だろう?その音楽、とても身体的に感じられて、耳で聴くばかりでない、ある種の体験を錯覚させる不思議さがある。で、聴くばかりではなかった中世の音楽を思い出させる。いや、まさにファンタジア。幻想曲という形式を越えた、本当のファンタジー... それを生み出してしまう、ラザレヴィチの圧巻のテクニック!ピリオドのフルートらしさ、そのやわらかな音色を味わいながら、フルートという楽器を越えて行くほどの表情の豊かさが繰り出されて... いや、ラザレヴィチの圧巻のテクニックが、フルートのリミッターを外してしまい、より自由に羽ばたかせて、魔法掛かっている!
そもそも、自由に羽ばたける音楽を書いてしまったテレマンが凄い。幻想曲の性格を最大限に活かし、形式に縛られない音楽を存分に展開して、いや、びっくりするような瞬間すらある。特に息を長くゆったりとしたフレーズを吹くところ... その佇まいはバロックを越え、多感主義を先取りするようで、さらにはロマンティックに聴こえるものも、場合によっては印象主義を思わせるものも... テレマンの自由さが、思い掛けなく未来への扉を開いてしまう。この感覚は、同世代で友人のバッハの音楽には望めない。かと思うと、バロックの様式感に彩られて、鮮やかに切り返してみせて... 7番(track.7)の2楽章、フランス風の舞曲の小気味良く刻まれるリズムの楽しげな表情!12番(track.12)の2楽章、テレマンお得意の民俗調に彩られたリズムのカッコよさ!時代に囚われない自由さと、時代ならではの型とが、寄せては返し、何かイメージを意図的に揺さぶるようで... 揺らいで、ファンタジーが立ち現れる?ひとつの音しか発せないフルートの制約を物ともせず、ひとつの旋律線から驚異的な音楽を出現させるテレマンのファンタジア。そうしたあたりに、テレマンのただならぬ力量を感じずにはいられない。しかし、ラザレヴィチの見事なパフォーマンスも相俟って、浮世の諸々を忘れさせてくれるトリップ感がこのアルバムにはある。いや、ファンタジアかくあるべし!もはや、魔笛。

TELEMANN 12 FANTAISIES FOR FLUTE FRANçOIS LAZAREVITCH

テレマン : 無伴奏フルートのための12のファンタジア TWV 40:2-13

フランソワ・ラザレヴィチ(フルート)

Alpha/Alpha 267




天体の運行を思わせる端正と神秘、ヴァイオリンによるファンタジア。

CC72679
テレマンは、チェンバロのために36のファンタジア(1733)を書いている。そして、無伴奏フルート(1732-33)、無伴奏ヴァイオリン(1735)、無伴奏ヴィオラ・ダ・ガンバ(1735)のために、それぞれ12のファンタジアを書いている。いや、独奏で、12ものファンタジア(チェンバロは×3!)を書き、並べるというのは、それぞれの楽器に精通していないと、なかなかできないことだと思う。また、楽器の特性を知った上で、その可能性を可能な限り引き出す力量がなければ、たったひとつの楽器で12曲を綴るのは耐えられないだろう。そうしたことが容易に想像できる中、4つもの楽器で、12×3+12+12+12のファンタジアを書き上げたテレマンのポテンシャルの高さには舌を巻く。でもって、実際に、その4つの楽器によるファンタジアを聴き比べれば、圧倒されてしまう。それぞれの楽器の特性を活かし切り、それぞれに違うアプローチで、見事にファンタジアを繰り出してしまうのたがら... いや、フルートの後に、ヴァイオリンのためのファンタジアを聴くと、テレマンの万能さが、一層、際立つ。フルートとは違って、重音を奏でることのできるヴァイオリン。単音の鮮烈さに、和音を巧みに挿んで、フルートには無い広がりを生み出し、よりバロック的な表情を描いて行く。緩急で楽章を織り成し、しっかりと音楽を構築して、雄弁に繰り出される12のファンタジアは、その充実した響きに、独奏であることを忘れそう。全てがスムーズに織り成され、どの瞬間も耳に心地良く、音楽としてのおもしろさに充ち満ちて、このまとまりの良さが、ある意味、ファンタジー!バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータ(1720)が、実に向こう見ずに思えてしまうほど...
という、テレマンの無伴奏ヴァイオリンのための12のファンタジアを、デ・フィリッピのピリオドのヴァイオリンで聴くのだけれど、まずその音色のやさしさに耳が奪われる。澄み切っていながら、伸びやかで、けど、どこか翳もあって、より落ち着いた印象をもたらすデ・フィリッピのヴァイオリン。如何にもバロックな鋭さで、スコアを切り裂くようなことはせず、一音一音を丁寧に捉え、ファンタジアのファンタジーを大事に響かせる。すると、卒の無いテレマンの音楽が、より魅惑的なものとなって、ひとつひとつのファンタジアは味わいを増し、それぞれの表情が映え、何だかスケールが大きくなるような錯覚を覚える。それでいて、さーっと視界は晴れ、ずっと遠くまで見通せそうなデ・フィリッピのクリアな演奏。見事なテクニックを披露する細かなパッセージも、その細かいことに精神を集中するのではなく、どこか引いて見つめるような醒めた感覚があって、常に全体像が意識されるのか... 聴き進めれば、聴き進めるほど、テレマンの音楽の端正さは際立ち、ヴァイオリンの響きは研ぎ澄まされ、ファンタジアは天体の運行を思わせる無駄の無さと神秘に包まれる。いや、バッハに引けを取らず、テレマンもまたユニヴァーサル!その壮麗なるファンタジーに、心が浄められる思い。

Georg Philipp Telemann 12 Fantasias for solo violin LUIGI DE FILIPPI

テレマン : 無伴奏ヴァイオリンのための12のファンタジア TWV 40:14-25

ルイジ・デ・フィリッピ(ヴァイオリン)

CHALLENGE CLASSICS/CC 72679




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