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秘密の実験室で生まれた、不思議な光を放つソナタ、スカルラッティ。 [before 2005]

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鍵盤楽器のためのソナタでお馴染みのドメニコ・スカルラッティ。なのだけど、改めて音楽史からその存在を見つめると、掴みどころがないような印象があって、戸惑いを感じることも... バッハ、ヘンデルと同い年、盛期バロックに活躍した世代でありながら、バッハ、ヘンデルの時代感覚とは、どこかズレているようで、そのズレがまた、より先を行くようでもあり、遅れているようでもあり、鍵盤楽器のためのソナタのみならず、ドメニコ・スカルラッティの音楽に触れていると、時代感覚が消失してしまいそうで、不思議。で、この不思議さは、どこから来るのか?いろいろ考えてみると、マイペースさから来るような気がする。イタリアの最新のスタイルを吸収しようと、そのコピーを試みたバッハ、イタリア・オペラ・ブームに乗りつつ、そのブームに振り回されたヘンデルが象徴するように、モードが強く意識された時代、ドメニコ・スカルラッティは、少し奇妙に思えるほど、そうしたモードから距離を取るのか... なればこそ、その音楽は、今を以ってしても瑞々しさを保ち続けているように思う。
ということで、前回、ピアノによるソナタを聴いたので、今度はチェンバロで... クリストフ・ルセの演奏による、ドメニコ・スカルラッティのソナタ(L'OISEAU-LYRE/458 165-2)。そうして、ドメニコ・スカルラッティ、その人について、改めて見つめ直してみる。

ドメニコ・スカルラッティ(1685-1757)。
ナポリ楽派、最初の巨匠、アレッサンドロ(1660-1725)を父に、ナポリで生まれたドメニコ... となると、ナポリの音楽学校で学び、ナポリ楽派の既定コースを歩んだかと思いきや、宮廷楽長のおぼっちゃまは、音楽学校には通わず、父を含め音楽一家の誰かによって、音楽教育がなされたらしい。1701年、16歳になる少し前には、父が楽長を務めていたナポリの王室礼拝堂のオルガニストに就任。同世代の叩き上げのナポリ楽派の作曲家たちからすると、随分と恵まれていたなと... 間もなく、オペラに携わるようになると、1705年、スター・カストラート、ニコリーニ(やがて、ロンドンに渡り、ヘンデルの『リナルド』のタイトルロールを歌っている... )の一座に加わって、ヴェネツィアへ... まだヴェネツィアがナポリよりも優位にあった時代、ドメニコは4年間をヴェネツィアで修行している。そして、1709年、ヨーロッパ中からセレヴが集結する国際都市、ローマへと移り、その音楽シーンにおいて注目を集めた、元ポーランド王妃、マリア・カジミェラ(夫のポーランド王、ヤン3世が死去した後、ローマに身を寄せていた... )の宮廷に仕えると、鍵盤楽器奏者として評判を呼び、ブレイク!やはりローマにやって来ていた同い年のヘンデルと、鍵盤楽器対決に挑んだりと、花々しく活躍。1713年には、教皇の聖歌隊、カペッラ・ジュリアの楽長(かつて、パレストリーナが務めていた!)に就任するも、ポルトガル大使の鍵盤楽器奏者を務めたことを切っ掛けに、ポルトガル王家からの招聘を受け、1720年、リスボンへ... 極めて音楽の素養が高かった王女、マリア・バルバラ(1711-58)に仕えたことで、ドメニコの音楽は、モードに捉われることなく、希有な境地へと至る。
そのマリア・バルバラの下で生み出されたのが、500曲を越える鍵盤楽器のためのソナタ... 王女のための練習曲として作曲され始めるも、紡ぎ出された音楽は、練習曲の枠組みを越えて、希有な存在感を放つ。そこには、前回、聴いた通り、マリア・バルバラが所有していたピアノという新しいマシーンからの影響が感じられ、チェンバロのための音楽からは一歩踏み出す表現が間違いなく存在している。そして、もうひとつ、ドメニコの音楽を特徴付けているのが、モードに捉われないニュートラルさ... ナポリに生まれながら、18世紀、ヨーロッパを席巻することになるナポリ楽派とは距離を取り、ブレイクを果たしたローマのインターナショナル性こそ、自らの音楽に反映させ、さらに、当時のモダニズムとしてのコレッリの対位法と、教会音楽の伝統であるポリフォニー、パレストリーナのスタイルを堅持するローマ楽派の古雅な対位法とを巧みに用い、古さと新しさの両方を大切に、音楽の普遍性を追い求めたか?そういうモードに捉われないドメニコのマイペースを支持したマリア・バルバラがいて、その庇護の下、音楽先進地域から外れたイベリア半島で研ぎ澄まされて行ったソナタの数々... 改めて、そのソナタを、丁寧に見つめてみると、秘密の実験室で生まれた、不思議な光を放つ、特別な結晶のような印象を受ける。そして、その不思議な光に触れると、バッハ、ヘンデルとは、何かが違う、パラレル・ワールドに迷い込むような、奇妙な感覚を味わう。確かに18世紀の音楽だけれど、あるべきはずの18世紀の音楽ではないという奇妙なズレ... このズレが、ドメニコの音楽を特別なものとし、また、今を以ってしても瑞々しさをもたらすのだなと...
でもって、ルセのチェンバロで聴くのだけれど、パチンパチンと、一音一音が、美しく弾けて行くようなタッチに、まるでシャンパンを楽しむような感覚があって、惹き込まれる!ルセらしいクリアで確固とした響きが生む、ちょっと刺激的な心地良さがたまらない。また、そうしたタッチがドメニコの音楽の魅力をしっかりと捕まえて、それぞれのソナタのおもしろさを明快に鳴らしつつ、それぞれが持つフレーバーのようなものをそこはかとなしに引き立てていて... ト長調のソナタ、K.427(track.8)のモーツァルトを思わせる才気と色彩、ニ短調のソナタ、K.120(track.11)のカール・フィリップ・エマヌエル・バッハを思わせる多感主義風のドラマ性、ト長調のソナタ、K.144(track.12)のどこかクープランを思わせる装飾性が生むたおやかさ、そして、ト短調のソナタ、K.426(track.7)と、同じくト短調のソナタ、K.450(track.13)に漂うスペイン調... チェンバロらしい装飾的な表情から、ピアノを思わせる雄弁さまで、チェンバロという個性の際立った楽器から、表現の幅を引き出し、ドメニコの多彩さを鮮やかに展開。ミクロコスモスであると同時に、広がりも感じられて、魅了されずにいられない。しかし、ドメニコ・スカルラッティは、軽いようで、深い。今さらながらに、驚かされる。

DOMENICO SCARLATTI: HARPSICHORD SONATAS
CHRISTOPHE ROUSSET

スカルラッティ : ソナタ ハ長調 K.461
スカルラッティ : ソナタ ト長調 K.124
スカルラッティ : ソナタ ホ短調 K.147
スカルラッティ : ソナタ ホ長調 K.531
スカルラッティ : ソナタ ヘ長調 K.44
スカルラッティ : ソナタ ヘ長調 K.469
スカルラッティ : ソナタ ト短調 K.426
スカルラッティ : ソナタ ト長調 K.427
スカルラッティ : ソナタ ニ短調 K.52
スカルラッティ : ソナタ ニ長調 K.53
スカルラッティ : ソナタ ニ短調 K.120
スカルラッティ : ソナタ ト長調 K.144
スカルラッティ : ソナタ ト短調 K.450
スカルラッティ : ソナタ ニ長調 K.140
スカルラッティ : ソナタ ニ短調 K.141

クリストフ・ルセ(チェンバロ)

L'OISEAU-LYRE/458 165-2




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