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18世紀、それはナポリの世紀、ファリネッリ! [before 2005]

ヴェネツィア楽派の後は、ヴェネツィア楽派を追い落とした、ナポリ楽派!
ナポリ楽派の始まりは、プロヴェンツァーレ(1624-1704)と言われているものの、プロヴェンツァーレが活躍した17世紀は、ナポリはまだローカルで、燦然と輝く国際音楽都市、ヴェネツィアには遠く及ばなかった。それでも、地道に教育に力を入れていたナポリは、18世紀に入ると、ポルポラ(1686-1768)、ヴィンチ(1690-1730)、レオ(1694-1744)、ハッセ(1699-1783)、ペルゴレージ(1710-36)らの逸材を立て続けに輩出。さらに、長年、スペインの属国であったナポリ王国がとうとう独立(1735)を果たし、政治的安定を獲得すると、ナポリの音楽シーンはますます活気づき、宮廷、劇場、音楽院の緊密な協力によって、他に類を見ない、音楽輸出大国に進化を遂げて行く。そして、18世紀は、ナポリの世紀と言っても過言ではない。
ということで、ナポリ楽派が生んだスター、カストラート、ファリネッリ(1705-82)に注目してみることに... ルネ・ヤーコプスの指揮、ベルリン古楽アカデミーの演奏で、ヴィヴィカ・ジュノー(メッゾ・ソプラノ)が歌う、"Arias for Farinelli"(harmonia numdi FRANCE/HMC 901778)と、アンドレア・マルコン率いる、ヴェニス・バロック・オーケストラの演奏で、フィリップ・ジャルスキー(カウンターテナー)が歌う、"PORPORA ARIAS"(ERATO/999934133)を聴く。


ファリネッリの時代を映す、"Arias for Farinelli"。

HMC901778.jpg
"ファリネッリ"こと、カルロ・ブロスキ(1705-82)。
南イタリア、アンドリアで、当地のカテドラルの楽長をしていた父の下、次男として生まれたカルロ・ブロスキ。カストラートというと、こどもを去勢してまでスター歌手にしようという貧しい家の出身者が多かったのだけれど、ブロスキ家はけして貧しくはなく、それどころか貴族に連なる家系で、父は後に地方の行政長官にまでなっている。では、なぜカルロはカストラートとなったのか?1711年、一家がナポリへ出てしばらくすると、歌の才能を見せ始めたカルロ。ポルポラ(1686-1768)に師事し、本格的に歌を学ぶようになる。そうした中、1717年、父が急死... それは、美しい高音を守るためだったのか?その美声を一家の糧にと考えたのか?サンタ・マリア・ディ・ロレート音楽院で学んでいた兄、リッカルド(ca.1698-1756)の意向(ジェラール・コルビオ監督の映画『カストラート』で描かれておりました... )が、ファリネッリを誕生させる。そんなカルロが、ファリネッリとしてデビューを果たした、1720年、師、ポルポラによるセレナータ『アンジェリカとメドーロ』。以後、師と組み、ナポリとローマで歌い、次第に注目を集めると、その評判はアルプスの北へも伝わり、1724年に、ウィーン・デビュー。ここからヨーロッパ中を渡り歩き、1734年、ロンドンへ... 師が手掛けるオペラに出演し、かのヘンデルを追い詰めることになる。
そんなファリネッリが歌ったナンバーを、ジュノーが歌う"Arias for Farinelli"。始まりは、師、ポルポラのアリア... 1736年、ロンドンでのパスティッチョ『オルフェオ』のためのアリアは、ファリネッリの絶頂期を物語る充実ぶり。散りばめられた美しいコロラトゥーラに魅了され、何より、声で音楽を飾るとはどういうことか、雄弁な歌いを聴かせてくれるジュノーのテクニックに息を呑む。続く、兄、リッカルドの『イダスペ』からのアリア、「忠実な霊よ、我もまた」(track.2)は、さらに魅了されてしまう。まさに弟の声を引き立てようという意志に貫かれ... その滔々と歌われるメロディーには、兄だからこその愛を感じ(その愛は弟への愛だったのか?弟の美声への偏愛だったのか?)、濃密な美しさに眩暈を起こしそう。いやー、こんな風に滔々と美声を聴かされ続ければ(10分にも及ぶ壮大さ!)、失神もするかァ。ジュノーの深く艶やかな歌声を追っていると、当時の風景が見えた気がする。
さて、ナポリ楽派の申し子、ファリネッリは、ヴェネツィアでも活躍しており... そうしたあたりも丁寧に拾い上げる"Arias for Farinelli"。北イタリアで人気を集めていたジャコメッリのアリアが2つ(track.4, 11)、さらにヴェネツィアの最後の輝きとも言える存在、ガルッピの4声の協奏曲(track.5-7)も取り上げられて、新興のナポリ楽派とヴェネツィアの音楽シーンを絶妙に対比させてみせるヤーコプス。ファリネッリという驚くべき才能を素直に活かそうというナポリ楽派の面々に対し、バロックらしさに留まる傾向を見せるヴェネツィアの音楽... ヴェネツィアの古風を前に、ナポリの流麗さに新しさを見出し、ヴェネツィアからナポリへという18世紀の潮流を、さり気なく響かせる妙。ファリネッリに注目しながら、時代のうつろいをも捉える巧みさに感心するばかり...
しかし、"Arias for Farinelli"の魅力は、何と言ってもジュノーの希有な歌声!ファリネッリが歌っただろうコロラトゥーラを難なく決めて来るのも凄いのだけれど、どこか夢見心地でもあるようなやわらかさと、驚くほどの深みも兼ね備えた不思議な感触。そのあたりに、カストラートの超越した雰囲気をそこはかとなしに伝えてくれているよう。そして、ヤーコプスの指揮、ベルリン古楽アカデミーの瑞々しい演奏!ナポリとヴェネツィア、新旧の対立軸をさらりと響かせて、アルバムをより立体的に繰り広げる器用さ... ジュノーの歌を、最大限、引き立てながら、ファリネッリの時代を活き活きと描き出す。

Arias for Farinelli ・ Vivica Genaux ・ René Jacobs

ポルポラ : パスティッチョ 『オルフェオ』 のための アリア 「いかなる苦悩からも」 *
ブロスキ : オペラ 『イダスペ』 より アリア 「忠実な霊よ、我もまた」 *
ブロスキ : オペラ 『イダスペ』 より アリア 「戦場のあの兵士」 *
ジャコメッリ : オペラ 『シリアのアドリアーノ』 より シチリアーナ 「神様、気が遠くなりそうです」 *
ガルッピ : 4声の協奏曲 ハ短調
ポルポラ : オペラ 『ポリフェーモ』 より アリア 「心地よくさわやかな風よ」 *
ハッセ : ポルポラのオペラ 『アルタセルセ』 のための 追加アリア 「今もしたれこめた暗雲は」 *
ハッセ : オペラ 『アルタセルセ』 より アリア 「この心地よい抱擁で」 *
ジャコメッリ : オペラ 『メロペ』 より アリア 「恋するナイチンゲール」 *

ヴィヴィカ・ジュノー(メッゾ・ソプラノ) *
ルネ・ヤーコプス/ベルリン古楽アカデミー

harmonia numdi FRANCE/HMC 901778




ファリネッリ、ナポリ楽派の覚醒、"PORPORA ARIAS"。

999934133
ニコラ・ポルポラ(1686-1768)。
バッハ、ヘンデルが生まれた翌年、1686年、ナポリの本屋に生まれたポルポラ。10歳の時にポヴェリ・ディ・ジェズ・クリスト音楽院に入学し、ナポリ楽派の一員として一歩を踏み出す。が、成功するまでに少し時間の掛かったポルポラ... まずは、教師として活躍。前述のファリネッリはもちろん、もうひとりのスター、カストラート、カッファレッリ(1710-83)を育て、さらにはドイツからやって来たハッセ(1699-1783)も、一時、教えていた。そんなポルポラがオペラ作家として存在感を示し始めるのが1720年代、才能ひしめくナポリではなく、ローマやヴェネツィアで人気を集め、1726年にはヴェネツィアに本拠を移し、やがてサン・マルコ大聖堂の楽長のポストを狙うまでになる。が、そのポストは叶わず、1733年、心機一転、ロンドンへ!ここから、ヘンデルとの熾烈な競争が始まる。教え子、ファリネッリとともに、本場イタリアの、最新のナポリ楽派スタイルで、ロンドンにおけるイタリア・オペラ・ブームを大いに盛り上げた。しかし、イギリスの宮廷における王と王太子の政治的対立を背景としたヘンデルとの対決の過熱は、ポルポラにとって不毛であり、ブームもやがて去ることを読んで、1736年、ロンドンを去る。その後もヨーロッパ各地を転々とし、ウィーンではかのハイドンを教え、次なる時代への橋渡しを担った。
というポルポラが、ファリネッリのために書いたアリアを、ジャルスキーが歌う"PORPORA ARIAS"。幕開け、『アリアンナとテーゼオ』(1714)からのアリアの、華々しさ、輝かしさにまず惹き込まれる!そこにはまた、いろいろなイメージが浮かび上がり... まず、ヴィヴァルディのオペラを思わせる鮮烈さ!ここで聴くアリアは、1728年、フィレンツェでの再演にあたり、ファリネッリのために書き足されたアリアとのこと。で、ヴィヴァルディが人気を博していた頃だけに、そうしたあたりが意識されたか?それでいて、ポスト・バロックを思わせる豊かな表情も見受けられ... いや、モーツァルトのオペラがどこからやって来たかを見出せるその音楽!ポルポラの古典主義を先取る感性が、印象的。続く、『見出されたセミラーミデ』のアリア(track.2)では、旋律を大切に歌い上げ、ナポリ楽派ならではの流麗さに惹き込まれる。それが、より際立っているのがロンドンでのオペラの数々...
『ポリフェーモ』(1735)からのアリア「いと高きジョーヴェ」(track.5)の、ただただ歌う。切々と歌い上げる。まさに歌の力を最大限に引き出した音楽に、ナポリ楽派の真髄を思い知る。『アウリデのイフィジェニア』(1735)からの2つのアリア(track.7, 9)もまたそうで、ファリネッリという希代の歌い手あってこその音楽... いや、歌える歌手を育て、その才能に当てて音楽を書くという、ナポリ楽派の音楽のレベルを、一段、引き上げる取り組みに、脱帽。ナポリ楽派は、作曲家だけでない、スター歌手もいて、進むべき道を切り拓いて行ったのだなと... そうして、全ヨーロッパを惹き付けて行ったのだなと... ポルポラとファリネッリのコラヴォレーションが絶頂期を迎えたロンドンでのオペラは、まさにナポリ楽派としての方向性が示された瞬間に感じられた。
そんなナポリ楽派の歌の魅力を見事に聴かせてくれるジャルスキー!いつもながらの明朗な歌声で、技巧的なあたりは鮮やかに決め、情感を籠めて歌うところも瑞々しく、自由自在。この自由自在さが、ファリネッリの音楽性を象徴しているのかも。で、"PORPORA ARIAS"のもうひとつの聴き所が、バルトリが加わる二重唱(track.4, 6)!ふわっとしたジャルスキーに、鋭いバルトリ、なかなかおもしろいコントラストで楽しませてくれる。という歌声を支えるマルコン+ヴェニス・バロック・オーケストラも確かな演奏を繰り広げ、歌ばかりでない、ナポリ楽派の充実したサウンドをしっかりと響かせる。

PHILIPPE JAROUSSKY PORPORA ARIAS

ポルポラ : オペラ 『アリアンナとテーゼオ』 より アリア 「天を見よ」
ポルポラ : オペラ 『見出されたセミラーミデ』 より アリア 「かくも慈悲深くあなたの唇が」
ポルポラ : オペラ 『アッシリアの女王、セミラーミデ』 より アリア 「荒れ狂う嵐の中の船のように」
ポルポラ : オペラ 『ポリフェーモ』 より 二重唱 「穏やかなそよ風よ」 *
ポルポラ : オペラ 『ポリフェーモ』 より アリア 「いと高きジョーヴェ」
ポルポラ : オペラ 『ミトリダーテ』 より 二重唱 「私が感じているこの喜び」 *
ポルポラ : オペラ 『アウリデのイフィジェニア』 より アリア 「澄みきった波は」
ポルポラ : オペラ 『ポリフェーモ』 より アリア 「愛する人を待っている間」
ポルポラ : オペラ 『アウリデのイフィジェニア』 より アリア 「切望するこの胸の中に」
ポルポラ : パスティッチョ 『オルフェオ』 のための アリア 「この上なく不幸な愛により」
ポルポラ : パスティッチョ 『オルフェオ』 のための アリア 「私の苦しみを憐れんでくれ」

フィリップ・ジャルスキー(カウンターテナー)
チェチーリア・バルトリ(メッゾ・ソプラノ) *
アンドレア・マルコン/ヴェニス・バロック・オーケストラ

ERATO/999934133




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