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『ウリッセの帰還』、その脱力の魅力を再発見。 [before 2005]

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ここのところ、ニュースを見ていると、煮え切らないようなことばかりで、ゲンナリする。世界で、日本で、グダグダ、グダグダ、グダグダ... 何が真実で、何が嘘なのか、よくわからないことが多々ある。というよりあり過ぎる!で、それらを包む梅雨空に、より一層、気分が滅入って来るようで、いけません。そうした中、ひとつ、スカっと態度を決めたのが、ギリシャの国民のみなさん!€ にOXI!Noと明確に意思表示したわけです(ギリシャの政治家たちは、Noとは言っていない、という解釈ではあるようだけれど... )。たとえそれがカタストロフだったとしても、何かすっきりとしたものを感じてしまうのは、ギリシア悲劇のカタルシス=浄化なのかも... そして、とうとう、ギリシャが、船出するわけです。自らの力で漕ぎ出すオデッセイ... 眼前には、ただならぬ荒海が広がっているわけだけれど、オデュッセウスも最後には帰還しました。きっと乗り切れる... 乗り切るしかない。乗り切れ!
と、ギリシャへのエールを籠めて、西洋文学の始まり、古代ギリシアの偉大な詩人、ホメロスの叙事詩、『オデュッセイア』をオペラにした作品... ルネ・ヤーコプスの指揮、コンチェルト・ヴォカーレの演奏、クリストフ・プレガルディエン(テノール)のタイトルロールによる、モンテヴェルディのオペラ『ウリッセの帰還』(harmonia mundi FRANCE/HMC 901427)を聴く。

1612年、ヴェネツィアのサン・マルコ大聖堂の楽長に迎えられたモンテヴェルディ(1567-1643)は、ヨーロッパの音楽界を牽引するヴェネツィア楽壇のトップの座に、長らく君臨していた。その晩年、1637年、ヴェネツィアに世界初の公開のオペラハウス、サン・カシアーノ劇場がオープンすると、ヴェネツィアっ子たちの間にオペラがブームとなり、かつてオペラを手掛けた巨匠、モンテヴェルディも、再びオペラに挑戦することに。1641年、74歳となったモンテヴェルディがサン・カシアーノ劇場のために作曲したオペラ復帰作が、ここで聴く『ウリッセの帰還』。長引くトロイア戦争を木馬で終わらせた知略家、イタケー島の王、オデュッセウスが、困難な航海を経て、イタケー島に帰り着いた後のエピソード、壮大な『オデュッセイア』の最後、妻、ペーネロペーとの再会と、ライヴァルたちを倒してその愛を再確認するまでを描くオペラ(ウリッセはオデュッセウスのイタリア語読み... )は、何かモンテヴェルディとオペラの関係に重なるようで、おもしろい。マントヴァで初めてオペラに取り組んだ『オルフェオ』(1607)から34年、その間、まったくオペラを書いていなかったわけではない(が、失われてしまった... )のだけれど、老巨匠がヴェネツィアで再び向かい合うオペラ... だからだろうか、活き活きとウリッセの帰還が描かれる。
オペラ黎明期の名作、『オルフェオ』を思い起こしながら聴く『ウリッセ... 』は、その音楽の充実に目を見張る!そしてそこには、誕生から半世紀が経過しようという頃の、オペラというスタイルの成熟ばかりでなく、ルネサンス・ポリフォニーを脱した、バロックの新しい音楽の深化... 今を生きる我々の音楽へとつながる、"音楽"そのものの成長もあるのだろう。語りながら歌う、レチタール・カンタンドを緩めて、よりしっかりと歌い、堂々と物語を紡ぎ出す姿に、頼もしさすら感じる。さらに、宮廷を飛び出し、新たな聴衆、ヴェネツィア市民を獲得して繰り広げられることになった、エンターテイメントとしてのオペラの初々しさ!ウリッセとペネーロペ夫婦のハッピー・エンドへと至るメイン・ストーリーばかりでなく、登場する全てのキャラクターが実に表情豊かに歌われ、群像の端々まで、活き活きとしている。そうして生まれる、微笑ましさ!『ウリッセ... 』は喜劇ではないのだけれど、喜劇的要素が多分に含まれ、今、改めてその群像を俯瞰すると、渡鬼的?な魅力があるのか?ホメロスによる『オデュッセイア』は英雄譚だけれど、その最後を切り取ることで、ホームドラマも繰り広げてしまう『ウリッセ... 』。そのことが絶妙に肩の力を抜いて... 時に脱力させるようなところすらあって... ウリッセが妻に言い寄ったライヴァルたちを射殺すシーン(disc.3, track.2)なんて、かなり新喜劇ちっくでウケる!もちろん、ウリッセとペネーロペのハッピー・エンドも聴きどころ。ふわっと幸せが匂うような最後の二重唱(disc.3, track.12)には、何とも言えず癒される。
で、ヤーコプス+コンチェルト・ヴォカーレによる『ウリッセ... 』。今さらどうのと言うまでもなく、名盤(1992年の録音で、1993年のレコード・アカデミー大賞... )なのだけれど、久々に聴いてみると、その瑞々しさに惹き込まれる!何というか、古臭さが無い。まったく以って、フレッシュ!23年前の録音というだけでない、モンテヴェルディのサウンド自体に不思議な新しさを感じてしまう。初期バロックのサウンドというのは、思い掛けなく鮮烈な印象を受けることがあるけれど、ヤーコプス+コンチェルト・ヴォカーレは、そうした初期バロックのサウンドをナチュラルに鳴らし、ふわっと輝かせる。その輝きの心地良さたるや!そこに、プレガルディエン(テノール)が歌うウリッセ、フィンク(メッゾ・ソプラノ)が歌うペネーロペを始めとする、当時の若手たちの瑞々しいパフォーマンスが乗って、花々しい初期バロックが繰り広げられる。歌に演奏に、まるで花畑にやって来たような楽しさ!ヴェネツィアっ子たちを沸かしたエンターテイメントを追体験させてくれる。

MONTEVERDI
IL RITORNO D'ULISSE IN PATRIA
CONCERTO VOCALE / RENÉ JACOBS


モンテヴェルディ : オペラ 『ウリッセの帰還』

ウリッセ : クリストフ・プレガルディエン(テノール)
ペネーロペ : ベルナルダ・フィンク(メッゾ・ソプラノ)
テレーマコ/シレネ : クリスティーナ・ヘグマン(メッゾ・ソプラノ)
エウメーテ : マーティン・ヒル(テノール)
エリクレーア : ジョスリーヌ・タイヨン(メッゾ・ソプラノ)
ピザンドロ/人間のはかなさ : ドミニク・ヴィス(カウンターテナー)
アンフィーノモ : デーヴィッド・トーマス(バス・バリトン)
アンティノオ : マーク・タッカー(テノール)
イーロ : ギ・ド・メイ(テノール)
メラントー : ファリダ・スブラータ(メッゾ・ソプラノ)
エウリーマコ : イェルク・デュルミュラー(テノール)
ミネルヴァ/運命 : ロレイン・ハント(ソプラノ)
ネットゥーノ/時 : ミヒャエル・ショッパー(バス)
ジョーヴェ : オリヴィエ・ラルエット(バス)
ジュノーネ/愛/シレネ : マルティーナ・ボヴェ(メッゾ・ソプラノ)
ナイアディ : フランチェスカ・コンジュ(ソプラノ)
ネレイディ : エリザベート・ショル(ソプラノ)

ルネ・ヤーコプス/コンチェルト・ヴォカーレ

harmonia mundi FRANCE/HMC 901427




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