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ドイツ・バロックの風景... バッハ、ヘンデル、テレマン... [before 2005]

遡った音楽史を、今度は下り始めての2回目...
今から300年前、1713年、ヘンデルがロンドンのクイーンズ劇場で、『テーゼオ』を初演した頃のヨーロッパを見渡したならば... ということで、前回、ヘンデルを最初に大抜擢したカイザーのオペラ、1711年に初演された、『クロイソス』を聴いたのだけれど、今度は、オペラから離れて、より多彩な作品を聴いてみようかなと。ドイツが生んだ、バロックの巨匠たちの、若かりし頃、1710年代が響いて来る3タイトル。
鈴木雅明率いる、バッハ・コレギウム・ジャパンの、バッハのカンタータのシリーズから、Vol.6(BIS/BIS-CD-851)と、エルヴェ・ニケ率いる、ル・コンセール・スピリチュエルによる、ヘンデルの『水上の音楽』(GLOSSA/GCD 921606)、ベルリン古楽アカデミーによる、テレマンの序曲-組曲集、"La Bizarre"(harmonia mundi FRANCE/HMC 901744)を聴く。


1708年―1717年、ヴァイマール、古き良き温もりを感じて... バッハのカンタータ...

BISCD851.jpg
1708年、ヴァイマールの宮廷オルガニストとなった、23歳のバッハ... やがて、長男、ヴィルヘルム・フリーデマン(1710-84)が生まれ、次男、カール・フィリップ・エマヌエル(1714-88)が生まれる頃には楽師長となり、公私ともに充実した人生を歩み始めていた頃、楽長のポストも目前だった。はずなのだが、ザクセン・ヴァイマール公国の共同統治(ドイツ特有の分割相続による分封を減らすために、兄弟でひとつの国を統治... )という政治体制が生む権力闘争に巻き込まれ、結局、楽長のポストを得ることはできなかった。そんなヴァイマール時代、1713年に作曲された21番のカンタータと、1715年に作曲された31番のカンタータを聴く。
カイザーの『クロイソス』を聴いて、ドイツのエルベ川流域の地域性のようなものを感じたが、バッハのカンタータからは、さらにさらにローカルなトーンを強く感じる。で、偉大なるバッハが、如何に音楽の中心地から遠かったかを思い知らされる。けど、この「田舎」っぽさが生む温かさたるや!最新モードのイタリアの華麗さ、宮廷が育んだフランスの秀麗さとは違う、多少、古臭くとも、伝統に裏打ちされたドイツの温もりに深く感動させられる。で、21番(track.10-20)が大好きでして... でもって、バッハ自身も、21番が好きだったとのこと... 悲痛なシンフォニア(track.10)に始まり、素朴ながらも多彩なアリア、ドラマティックでもあるコーラスで綴られ... 何と言っても最後のコーラスのフーガの、壮麗にして感動的なあたり!2部構成の充実の規模を誇り、確かな聴き応えが印象的。一方、31番(track.1-9)は、シンフォニアから明るく、何とも言えずハッピー!けして派手ではないけれど、心が浮き立つようなバッハならではの楽しさに彩られ、思わず微笑んでしまう。
そして、BCJ!バッハの素朴さを素直に響かせて生まれる感動... バッハが活躍した地から遠く離れた極東の島国から見つめる、特有のニュートラルな視点が、よりバッハの真実に迫り得るおもしろさ... BCJだからこそのバッハの魅力を、今、改めて、深く、感じ入る。

J.S. Bach: Cantatas ― Bach Collegium Japan/Suzuki

バッハ : カンタータ 第31番 「天は笑い、地は歓呼す」 BWV 31
バッハ : カンタータ 第21番 「わがうちに憂いは満ちぬ」 BWV 21

モニカ・フリンマー(ソプラノ)
ゲルト・テュルク(テノール)
ペーター・コーイ(バス)
鈴木雅明/バッハ・コレギウム・ジャパン

BIS/BIS-CD-851




1717年、テムズ川にて... ページェント!ヘンデル、『水上の音楽』。

GCD921606
バッハのカンタータの後で聴く、ヘンデルの『水上の音楽』。ザクセン・ヴァイマール公国と、グレート・ブリテン王国の格の違いというか、何と言うか... やっぱり、バッハの音楽のローカル性を思い知らされる、ヘンデルのインターナショナルなセンスに彩られた華やかなサウンド!さらには、ニケ+ル・コンセール・スピリチュエルによる、実際にテムズ川で演奏されたであろう編成を再現する大規模なサウンド!本当に同時代の作品なのだろうか?と疑いたくなるほどの距離感を、バッハとヘンデルの間に感じてしまう。しかし、このふたつの指向... インターナショナルな音楽シーンと、ローカルな音楽シーンが同時に存在し、重なって、影響し合い、音楽における「バロック」が存在していたわけで、改めてバッハとヘンデルを並べてみると、とても興味深く感じる。
そして、1717年、ヘンデル、32歳、ハノーヴァー朝のゴージャスなページェントを再現する、ニケ+ル・コンセール・スピリチュエル。テムズ川に響き渡らせた規模を再現するという、チャレンジングなその演奏に、2003年のリリース時には大きな話題を集めたわけだが... 久々に聴く、その巨大な編成(100人を越える!でもって、当然、ピリオド楽器... というから途方も無い!)でのヘンデルは、クラシックとしてお上品になってしまう以前の、当時の音楽の楽しみが噴き上がる光景を生々しく捉えていて、21世紀の今にあっても、ワクワクさせられる。それにしても、少し前の、それはそれはお上品に演奏されていた『水上の音楽』とは、何だったのだろう?クラシックは、いつの間にやら「楽しむ」という感覚が洗い落されてしまって、つまらないものになってしまっているのかも... そんなことを気付かせてくれるニケ+ル・コンセール・スピリチュエルの演奏。太鼓が打ち鳴らされる『王宮の花火の音楽』(trsck.19-24)では、さらにワクワクさせられて、「バロック」のカッコ良さが炸裂!

Haendel Water Music & Firewooks Niquet

ヘンデル : 『水上の音楽』 組曲 第1番 ヘ長調 HWV 348
ヘンデル : 『水上の音楽』 組曲 第2番 ニ長調 HWV 349
ヘンデル : 『水上の音楽』 組曲 第3番 HWV 350
ヘンデル : 『王宮の花火の音楽』 HWV 351

エルヴェ・ニケ/ル・コンセール・スピリチュエル

GLOSSA/GCD 921606




1712年―1721年、フランクフルト... 都会派、テレマンの序曲-組曲のウィット!

HMC901744
ニケ+ル・コンセール・スピリチュエルのヘンデルが規模で圧倒するならば、ベルリン古楽アカデミーのテレマンは、センスで圧倒して来る!とにかく、テレマンもまたカッコいい!ローカルな音楽シーンで経験を積み、やがてインターナショナルな音楽シーンへと羽ばたいたテレマンならではの、様々な要素を器用に結んで、活き活きとした音楽を響かせるそのセンス!フォークロワにも深く関心を寄せ、徹底してフランス流を学び、積極的にイタリアの最新の音楽にも触れて得た見事なバランス感覚から繰り出される音楽は、バロックのどの作曲家よりも聴き手を楽しませることに長けているように感じる。そんなテレマンが、宮廷からより開かれた都市という場所に新たな活躍を求めた、1712年... 31歳にして、自由都市フランクフルトの音楽監督に就任。
で、このフランクフルトで作曲した序曲-組曲を聴くのだけれど... 1曲目は、フランクフルトから程近い、ダルムシュタットの宮廷のために作曲された組曲(track.1-7)。宮廷から注文があれば、さらりと応える。というあたりが、何か都会的... で、ヴェルサイユへの憧れの強い宮廷用ということもあって、リュリのテ・デウムを思わせる荘重さで幕を開ける、鮮やかなほどにフランス流。けれど、単に壮麗なフランス流で終わらさないテレマンのセンス!その音楽、今を以ってすらスタイリッシュ!それから、4曲目、フランクフルトのコレギウム・ムジクム(音楽愛好家による団体)のために作曲されたであろう序曲、"La Bizarre"(track.19-26)は、そのタイトルがツボ... 音楽自体はビザール?ではなく、クール!で、ビザールな仕上がりなのが、2曲目、序曲「諸国民」(track.8-15)。これは、ハンブルクへ栄転(1721)した後の作品になるのだけれど、フォークロワのエッセンスも利用して繰り出される、まさに諸国民の姿がラヴリー!3曲目、ヴァイオリン協奏曲、「雨蛙」(track.16-18)は、もちろん蛙が鳴きます。そのユーモラスさ!変なのだけれど、結局、カッコよさに帰結させてしまうのがテレマン芸術の凄いところ。「諸国民」のモスクワ人(track.12)なんて、すでにロシア・アヴァンギャルドかも...
というテレマンを、すっきりとしたサウンドで捉え、そのウィットを余すことなく奏で切ったベルリン古楽アカデミーの美しくも胸空く演奏の爽快さたるや!テレマンのカッコよさは、ますます水際立って、バッハもヘンデルも霞みそう... いや、21世紀こそ、テレマンな気がする。

Telemann ・ "La Bizarre" ・ Akademie für Alte Musik Berlin

テレマン : 組曲 ニ長調 TWV 55 D:18
テレマン : 序曲 変ロ長調 「諸国民」 TWV 55: B5
テレマン : ヴァイオリン協奏曲 イ長調 「雨蛙」 TWV 51: A2 *
テレマン : 序曲 ト長調 「風変り」 TWV 55: G2

ミドリ・ザイラー(ヴァイオリン) *
ベルリン古楽アカデミー

harmonia mundi FRANCE/HMC 901744

バッハ(1685-1750)が生まれたアイゼナハ、ヘンデル(1685-1759)が生まれたハレ、テレマン(1681-1767)が生まれたマクデブルクは、ドイツ中部、比較的、近い位置関係にある。日本ならば、名古屋、米原、京都くらいの距離感だろうか?新幹線で二駅、三駅くらい?そのドイツ中部で、同時期に生まれた3人のドイツ・バロックの巨匠(ヘンデルは、イギリスに帰化するわけだけれど... )。バッハとヘンデルは、結局、会えずじまいに終わったが、テレマンは、バッハ、ヘンデル、それぞれと親しかったことが興味深い。
テレマンは、ライプツィヒ大学へ入学(1701)するために立ち寄ったハレで、ヘンデルと出会い、以後、長く親交を保った。テレマンがアイゼナハの宮廷に仕え始めた1708年、アイゼナハ出身のバッハはヴァイマールの宮廷に仕え始めたわけだが、ザクセン・アイゼナハ公爵家と、ザクセン・ヴァイマール公爵家は、同じくエルネスト系ヴェッティン家の一族。ふたつの領邦は後に合併(1741)し、ザクセン・ヴァイマール・アイゼナハ公国となる近さもあってか、テレマンとバッハは、それぞれの宮廷の注目の新人として、親交を結ぶ。ヴァイマールで誕生(1714)したバッハの次男、カール・フィリップ・エマヌエルは、テレマンが名付け親にもなった。
バッハとヘンデルに接点は無かったものの、そこにテレマンが加わると、ぐっと濃密になるドイツ・バロックの風景... 広く外へとその世界を広げて行ったヘンデル、ドイツ中部で壮大なるミクロコスモスを生み出したバッハ、ローカル性をスパイスに、より魅惑的なインターナショナル・スタイルを確立したテレマン。「ドイツ・バロック」と一括りにしてしまうけれど、ドイツ・バロックが内包するテイストというのは、独特の多層性を持っていて、イタリア、フランスのバロックにはない、広がりがあるのかも...




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