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ドイツの温もりに包まれて、カイザーのオペラ『クロイソス』、 [before 2005]

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1663年、1613年、1563年、1513年...
と、音楽史を遡って行くと、どんな風景が広がるのだろう?もの凄く興味を覚えつつも、もう付け焼刃では、遡れない。さくさくっと検索掛けて、図書館でパラパラっとページを捲ったくらいでは、そう簡単に見えて来ない専門領域。ならば、このあたりで引き返そう。遡って来た道を、また順を追って引き返してみようかなと... で、ひとつの年に限ってしまうと、視野が狭まってしまうので、今度は年代で見つめてみることに。ということで、1713年、ロンドンで、ヘンデルが『テーゼオ』を初演した時代、1710年代のヨーロッパを見渡す。
最初にヘンデルを見出した、ハンブルク、ゲンゼマルクト劇場の首席作曲家、カイザーの、1711年に初演されたオペラ... ルネ・ヤーコプスの指揮、ベルリン古楽アカデミーの演奏による、オペラ『クロイソス』(harmonia mundi FRANCE/HMC 901714)を聴く。

ラインハルト・カイザー(1674-1739)。
ライプツィヒからはそう遠くない、中部ドイツの小さな街、トイヒェルンのオルガニストの息子として生まれたカイザー。バッハ(1685-1750)より11歳年上となる。そして、11歳の時に、後にバッハも関わることになる、ライプツィヒのトーマス学校に入り、当時のトーマスカントル、シェッレ(1648-1701)、その後任で、バッハの前任者、当時は聖トーマス教会のオルガニストだった、クーナウ(1660-1722)らから音楽を学ぶ。その才能はすぐに開花し、バロック期、ドイツ語によるオペラ上演で、先駆的な役割を果たしていた、北ドイツのオペラの中心地、ブラウンシュヴァイク・ヴォルフェンビュッテル候国の宮廷作曲家(1694)となり、多くのオペラを作曲。これを足掛かりに、北ドイツ、最大の音楽都市、ハンブルクへ進出し、20代前半にして、ゲンゼマルクト劇場の首席作曲家に... そして、この劇場で1711年に初演された、カイザーの『クロイソス』を聴くのだけれど...
バロック・オペラというと、とにかくイタリアであって。それに抗うようにフランスの存在があって。その間に挟まれたドイツの存在感というのは、極めて薄い。ドイツ語のオペラとなれば、モーツァルトのジングシュピールを待たないと、なかなか見えて来ない。が、ドイツ語のオペラの試みは、17世紀末、かなり盛んだったらしい。カイザーが宮廷作曲家のポストを持っていたブラウンシュヴァイク・ヴォルフェンビュッテル候国や、ザクセン・ヴァイセンフェルス公国(カイザーが生まれたトイヒェルンのある... )の宮廷が積極的にドイツ語のオペラ上演に乗り出し、カイザーも、ブラウンシュヴァイク、ヴォルフェンビュッテル、ヴァイセンフェルスの街の劇場で、多くのオペラを上演し、人気を集めていた。のだけれど、今となっては、そのあたり、なかなか窺い知ることはできない。そこに来ての『クロイソス』は、ドイツ・オペラの最初の盛り上がりを知る、貴重な機会をもたらしてくれることに...
で、ドイツ・オペラの黎明期は、どんな感じだったか?というと、バロック・オペラそのものでありながらも、ドイツ語というだけで、イタリアともフランスともまた違う印象を与えてくれるからおもしろい。語感が生み出す音楽性の違いというのか、『クロイソス』を聴いていると、ドイツ語にはドイツ語の歌のあり方というものが間違いなく存在しているのだなと、とても興味深い思いがする。イタリアの華やかさ、フランスの流麗さとも違う、ほのぼのとした温もり... ふと思い出すのは、バッハのカンタータで聴く感覚だろうか?ドイツ中部から北部へ、エルベ川の流れに沿うように広がるローカルなトーン?地域性というものを強く感じながらも、これこそが、ヴェルサイユともヴェネツィアとも違う魅力に成り得ているあたりが、何だかとても素敵に思えてしまう。2年後、ロンドンで初演されたヘンデルの『テーゼオ』と比べてみれば、『クロイソス』の地域性は滋味となって、他には無い人懐っこさを放つかのよう。いや、バロック・オペラは派手さばかりじゃない!その温もりに溢れるサウンドに、感動してしまった。
そんな、カイザーの魅力を、見事に引き出すヤーコプス。とはいえ、いつものヤーコプスならではの息衝く音楽とは一味違い、カイザーの音楽にそっと寄り添い、ひとつひとつのレチタティーヴォ、アリアを丁寧に響かせて、ドラマ全体を、愛おしげに、やわらかな温もりで包むかのよう。そうして生まれる、不思議なハッピー感!ベルリン古楽アカデミーの演奏も、ひとつひとつの楽器がより丁寧に響くようで、何気ない瞬間も、より味わい深いものに。そんな演奏に乗って、表情豊かに歌い上げる、ピリオドで活躍する歌手たちのナチュラルな歌声!バロック的な、スペクタキュラーなコロラトゥーラで圧倒するような場面はないものの、的確に、かつほのぼのと歌い紡がれて広がる空気感というのは、得も言えないものがある。そうして際立つ、カイザーのオペラの人懐っこさ。イタリアやフランスのオペラとは一線を画す素直さも浮かび上がり、それがまた、たまらなく耳に心地良く、何だか癒されてしまう。世の中、金ばかりじゃない... という、世界一の大金持ちの顛末を描く物語もまた、資本主義が管を巻く21世紀には響くところがあって、味わい深いものがある。

REINHARD KEISER
CROESUS
AKADEMIE FÜR ALTE MUSIK BERLIN
RENÉ JACOBS


カイザー : オペラ 『クロイソス』

クロイソス : ローマン・トレーケル(バリトン)
ツィールス : ヨハネス・マンノフ(バリトン)
エルミーラ : ドロテア・レシュマン(ソプラノ)
アティス : ヴェルナー・ギューラ(テノール)
オルサネス : クラウス・ヘーガー(バス)
エリアテス : マルクス・シェーファー(テノール)
クレリダ : サロメ・ハラー(ソプラノ)
ソロン : クワンチュル・ヨン(バス)
ハリマクス : グラハム・プシー(カウンターテナー)
トリゲスタ : ブリギッテ・アイゼンフェルト(ソプラノ)
エルツィウス : クルト・アツェスベルガー(テノール)
将校 : イェルク・ゴットシック(バリトン)
ネリルス : ヨハンナ・ストイコヴィッチ(ソプラノ)
RIAS室内合唱団
ハノーファー少年合唱団

ルネ・ヤーコプス/ベルリン古楽アカデミー

harmonia mundi FRANCE/HMC 901714




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