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時間に香りを見出すエステバン、"El aroma del tiempo"。 [before 2005]

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先日、『ハリー・オーガスト、15回目の人生』というイギリスの小説(SFにして、歴史小説でもあるというあたり、個人的にツボ... でもって、本国、イギリスでベストセラーになったんだって... )を読み終える。タイトルの通り、ハリー・オーガストが15回も人生を生き直すという物語... つまり、ある種のタイム・リープものなのだけれど、近頃、そういう物語、多い気がする。けして越えることのできない時間の壁を、物語の中で越えて行く。そういう物語が求められる背景には、何があるのだろう?と、ふと考える。ますます時間に追われる現代社会、追われて誤った選択をしたと感じている現代人の、やり直したいという欲求が反映されているのか?現代社会を生きていると、ありのままの人生を受け入れることが難しくなってしまうのかもしれない。とはいえ、タイム・リープはロマンティックである。つまり、タラレバは、想像力を掻き立てる!なればこそ、タイム・リープものは、刺激的なのだろうなァ。そうそう、クラシックを聴くことも、擬似タイム・リープじゃない?音楽という時間芸術を、時代を経て聴くということは、かつてを生きた人たちと同じ時間を共有することになるわけで... いや音楽は実際的に時間を越えている!
ということで、時の香り、というタイトルを持つアルバムを聴いてみようかなと... 古楽の太鼓の巨匠、ペドロ・エステバンが、気心の知れた古楽の仲間たちと、古楽にこだわらない、古楽からの新しいフュージョンを響かせる不思議なアルバム、"El aroma del tiempo"(GLOSSA/GCD 921002)。前回に続いてのクラシックを夏休み。で、クラシックを外れて、時空も飛び越える。

"El aroma del tiempo"、時の香り... 時間に香りを見出す感覚って、ちょっと不思議。けど、とてもおもしろいなと思う。何より詩的で、その感覚に凄く魅了されてしまう。で、それは、リズムを刻む、つまりテンポを創り出す、パーカッショニスト、エステバンだからこそ見出せる感覚なのだろうなと... いや、振り返ってみると、エステバンが叩く太鼓は、単に叩くに留まらない、得も言えぬ香りが感じられ、ハっとさせられる瞬間が、これまで、幾度もあった。"El aroma del tiempo"、時の香りとは、そうしたエステバンの太鼓哲学が、より解り易い形に拡張された音楽と言えるのかもしれない。そこでは、太鼓には収まり切らないエステバン芸術の全てが詳らかにされる。古楽からワールド・ミュージックへ、さらにニュー・エイジへと広がりを見せ、普段の渋い古楽からは想像もできないほどクールなサウンドを響かせて、様々な音楽が時を越えてフュージョンされ、スペイシーなサウンドが繰り広げられる。太鼓に留まらず、ピアノを弾き、キーボードを操り、プログラミングからサンプリングまで、普段の古楽ではあり得ない技術を駆使して、時から香りを抽出するエステバン。太鼓に、古楽に、まったく捉われない、その縦横無尽さに、驚かされる。太鼓仙人、エステバンの頭の中には、こんな音楽が響いていたのかと...
ピアノとヴィブラフォンによるメランコリックでスウィートな音楽で始まる"El aroma del tiempo"、そこに、ニッケルアルパ(ハーディ・ガーディに似たスウェーデンの民俗楽器... )の素朴な音色が切なげなメロディーを歌い出し、何とも言えない郷愁に包まれる1曲目、"Combustión espontánea"。モダン楽器と、古楽器と、電子楽器が、思いの外、ナチュラルにサウンドを重ねて紡ぎ出される不思議なトーンにまず惹き込まれる。その不思議さから一転、太鼓仙人の面目躍如、太鼓のみによるナンバー、"Kit Para Romper Tiempos Pequeños"(track.2)が続き、優秀な録音(これが半端無い!)もあって、一打一打の深みと瑞々しさに目が覚める!それは、アラブか?アフリカか?エキゾティックでプリミティヴな表情も見せながら、独特なディープさを響かせ、小気味良くもマジカル... すると、虫が鳴き出し、遠くで鳥も鳴いて、夜の野原にでもやって来たような3曲目、アルバムのタイトルと同じ"El aroma del tiempo"(track.3)。アルパ・ドッピア(ルネサンス・ハープ)が、アルカイックなサウンドで静かに子守唄を歌い出し、何ともやさしい心地にさせられる。そこから、オキャロラン(17世紀末から18世紀に掛けて、アイルランドで活躍したトラッドの作曲家... )による人懐っこいケルトのメロディーが聴こえて来て、4曲目、"Carolan's cup"(track.4)では、再び郷愁に包まれる。時の香りとは、懐かしさだろうか?
となると、"El aroma del tiempo"は、ちょっとセンチメンタル過ぎる?いやいや、ベースが渋く響く"B, durmiendo"(track.5)は、ジャジーで、"Por un tubo"(track.8)は、まるでジャングルの奥地に迷い込んだようで、チベットのホルンのファンファーレ(タロタというオーボエのようなスペインの古楽器による... )を思わせる鮮烈さで始まる"Esa otra cosa"(track.9)は、サイケデリック!かと思うと、スチールパンのようなカラフルなサウンド(ヴィブラフォンとマリンバの音色が巧みに重ねられて生み出される... )に彩られて、いつの間にか陽気なカリブ?のはずが、軽やかなタール(ペルシャ文化圏のリュート... )の調べに乗ってイスラム世界へと誘われる"L'impossible amour"(track.10)が続き、それはもう、ワールド・ミュージック!驚くべき世界旅行が繰り広げられ、あらゆる感性がフュージョンされて、驚くべき音楽世界を出現させる。それでいて、最後は叩くことから離れ、ブライアン・イーノか、ヴァンゲリスかという、アンビエントでスペイシーな音楽をシンセサイザーで飄々と奏でてしまうエステバン... とにかく、やりたい放題で聴く者を圧倒して来る。
しかし、改めて"El aroma del tiempo"を聴いてみると、まさにフュージョンだなと... 時空を超越したサウンドの集積としての"El aroma del tiempo"であり、様々な感性が集積して、時が香り出すという驚くべき魔法!何なのだろう、この不思議さ... そして、その不思議さを紡ぎ出す、エステバンの万能のテクニック!パーカッションばかりでない、ピアノもさらりと弾きこなし、キーボードも縦横無尽に繰って、驚くべきサウンド・スケープを聴く者の脳裏に映し出す、ただならぬ力量!凄過ぎる... アンブロジーニ(ニッケルアルパ、ヴァイオリン、タロタ、柳の笛)や、アリアンナ・サヴァール(アルパ・ドッピア)といった、ともに活躍する古楽の名手たちの助けもありながら、ほとんどのサウンドを自らで創り上げてしまうパワフルさには、もう唸るしかない。裏を返せば、それだけ豊かな音楽世界、明確なヴィジョンが、エステバンの頭の中に存在していたわけだ... いや、道理で、普段の仕事の、あの太鼓の一打に、ただならぬ音が響くわけだ。

EL AROMA DEL TIEMPO | THE SCENT OF TIME
PEDRO ESTEVAN

ペドロ・エステバン : Combustión espontánea
ペドロ・エステバン : Kit para romper tiempos pequeños
ペドロ・エステバン : El aroma del tiempo
ターロック・オキャロラン : Carolan's cup
ペドロ・エステバン : B, Durmiendo
ジュリオ・アンドラーデ : Nana para ainhitze
ペドロ・エステバン : Nocturno 2
ペドロ・エステバン : Por un tubo
ペドロ・エステバン : Esa otra cosa
ペドロ・エステバン : L'impossible amour
ペドロ・エステバン : El eco de la soledad
ペドロ・エステバン : Espuma de aire
ペドロ・エステバン : Esto es para ti

ペドロ・エステバン
(ヴィブラフォン、マリンバ、ピアノ、キーボード、プログラミング、カンタロ、タンブリン、パンデイロ、リグ、
グリス・フレーム・ドラム、ドイラ、バス・ドラム、ダウリ、段ボールのチューブ、様々な音作りの道具、パーカッション)
マルコ・アンブロジーニ(ニッケルアルパ、ヴァイオリン、タロタ、柳の笛)
ディミトリス・プソニス(ラウト、タール、ブズーキ)
ジュリオ・アンドラーデ(ダブル・ベース)
アリアンナ・サヴァール(アルパ・ドッピア)
サルバドール・ビダル(クラリネット)

GLOSSA/GCD 921002




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大町阿礼

スマホで無料で読めるWEB小説のご紹介です。短編なので小一時間で読破出来ます。挑戦してみては如何ですか。世界は広いと感じる筈です。時間軸においてですが。
WEB小説「北円堂の秘密」が今夏の隠れたベストセラーと知ってますか。
グーグルで「北円堂の秘密」と検索するとヒットするので無料で読めます。
世界遺産・古都奈良の興福寺・北円堂を知らずして日本の歴史は語れないと云われています。
日本文化発祥地の鍵を握る小説なのでご一読をお薦めします。
少し日本史レベルが高いので難しいでしょうが歴史好きの方に尋ねるなどすれば理解が進むでしょう。
今秋、東博では「運慶展」が開催されるが、出陳品の無著・世親像を収蔵するのが興福寺・北円堂である。
貴職におかれてもホットな話題を知っておくことは仕事に少なからず役立つでしょう。
先ずはブログ主様ご本人からベストセラー小説「北円堂の秘密」の読破をされては如何だろうか。
読めば日本史のミラクルワールド全開です。お友達に教える時はネタバレ無しで口コミして下されば幸いです。

by 大町阿礼 (2017-08-30 19:37) 

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