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ヴァイマール共和国、二束三文の享楽、『三文オペラ』の衝撃... [before 2005]

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さて、『ベガーズ・オペラ』を聴いたので、そのリメイク作品であるブレヒト、ヴァイルによる『三文オペラ』を聴いてみようと思うのだけれど、『三文オペラ』(1928)は、『ベガーズ・オペラ』(1728)の初演200周年記念作品でもあるのだよね... けど、『三文オペラ』の制作を主導したブレヒトは、それをまったく狙っていなかったところがおもしろい。そもそも、成功すら期待していなかったようで... ヴァイルによる音楽のチープさも、ある種の気の無さを表していたよう... しかし、そういう作品こそ大成功するという皮肉。考えてみれば、『ベガーズ・オペラ』がそういう作品だったなと... となると、2つの作品は、極めてよく似ていると言えるのかもしれない。いや、200年の時を経て、見事に共鳴する2つの作品であって、ちょっと運命的なものすら感じてしまう。
ということで、HKグルーバーの指揮、アンサンブル・モデルンの演奏、マックス・ラーベのメッキース、HKグルーバーのピーチャム、ニナ・ハーゲンのピーチャム夫人で、ブレヒトとヴァイルによる『三文オペラ』(RCA RED SEAL/74321-66133-2)を聴く。

始まりは、材木問屋のおぼっちゃまで、俳優をしていたエルンスト・ヨーゼフ・アウフリヒト(1898-1971)が、劇場経営に乗り出せるほどのひと財産を相続し、1928年、ベルリンのシッフバウアーダム劇場を借り受けたこと... アウフリヒトは、何か目を引く新作で、劇場の新体制の幕を開けようと考え、4月、気鋭の劇作家、ブレヒト(1898-1956)に声を掛ける。ブレヒトは、執筆中の新作を提案するも、若き劇場支配人の心には響かず... そこで、ブレヒトの愛人で秘書を務めていたエリーザベト・ハウプトマンがドイツ語訳していた『ベガーズ・オペラ』(1920年、フレデリック・オースティンの脚色でリヴァイヴァルされ、ロンドンで大ヒットしていた... )について話すと、俄然、乗り気に!ブレヒトは、前年、『小マハゴニー』(後にオペラ化される『マハゴニー市の興亡』の端緒となった歌芝居... )で共に仕事をした若手作曲家、ヴァイル(1900-50)を誘い、バラッド・オペラ『ベガーズ・オペラ』の翻案に取り掛かる。が、8月末に設定された開幕日まで時間が無かった!俳優、演出家も含め、ブレヒト一行は、南仏、リヴィエラで合宿。7月末、作品を何とか形にまとめとベルリンに戻るも、予定していた俳優たちが、病気だ、何だで、舞台を降りたり、用意されていたヴァイルのソングに難癖が付いて、カットされたり、差し替えられたり、舞台稽古はゴタゴタ続き、もはや誰もこの作品が成功するなんて思っていなかった。それでも、期日に幕が上がった『三文オペラ』。結果は、大成功!それどころか、20世紀演劇史に名を残す、普及の名作となる。
という時間の少ない中、ゴタゴタの末に誕生したからこその、やっつけ感と、やさぐれ感が、たまらなく刺激的な『三文オペラ』。そのありのままの姿を、取り繕うことなく、剥き出しで音にしたHKグルーバー、アンサンブル・モデルン。いやもう、突き抜けている!何と言っても、ピーチャム夫人に、ニナ・ハーゲン(パンクの母!)をキャスティングしていることが、全てを物語っている。擦り切れた声でシャウトするニナ、クラシックの対極を行く、そのパフォーマンスが、『三文オペラ』の、二束三文でしかない魅力を、徹底してひり出して、きっと取っ散らかっていただろう初演の舞台の生々しさを呼び起こす。そして、取っ散らかって生まれるテンションの高さに、普段のオペラでは絶対に得られない、ちょっと後ろめたさを伴う高揚感を味わう。いや、この高揚感、初演に駆け付けたベルリンっ子たちも味わったはず... 新即物主義の画家たち、オットー・ディクス(1891-1969)や、ゲオルク・グロス(1893-1959)の描き出した、グロテスクで露悪的な画面が象徴する、ドイツの1920年代、ヴァイマール共和国の時代の禍々しさ... そういう時代の気分をたっぷりと含んだ、リアルな『三文オペラ』の刺激的なこと!これを刺激的だと思えるということは、我々の時代もまた、かつての時代のような禍々しさに包まれている?
しかし、改めてヴァイルの音楽を聴くと、その在り合わせ具合に面喰う。ジャズあり、タンゴあり、オペレッタあり、ほとんど、大衆音楽の玉手箱やァ!みたいな、脈略の無さ... いや、そこにこそ、『ベガーズ・オペラ』のバラッド・オペラとしての作法がきっちりと踏襲されていて、なかなか興味深い。一方で、『ベガーズ・オペラ』と決定的に違うことがある。全てのナンバーが、ヴァイルによって作曲されていること... 『三文オペラ』を彩るナンバーは、みなどこかから拾って来たようなナンバーであり、その脈略無く繰り出される、てんでばらばらな音楽を、ひとりの作曲家が作曲したとなると、驚くべき器用さだ。二束三文を強調する薄っぺらいオーケストレーションも、独特の乾いた質感を生み、ウルトラ・ロマン主義がとぐろを巻くオペラが、まだまだ存在感を示していた時代、そこには衝撃的なほどの革新性を感じずにはいられない。もちろん、『ベガーズ・オペラ』同様、アンチ・オペラという大義があってこそのものではあるのだけれど、それは、単なるアンチ・オペラを越えた境地を見出す。『三文オペラ』というと、どうしてもブレヒトの戯曲としての側面が強くなってしまうが、ヴァイルの音楽も、意図して生み出されたB級感に、20世紀音楽としての鋭さが、間違いなく示されている。

KURT WEILL Die Dreigroschenoper / The Threepenny Opera Ensemble Modern HK Gruber

ヴァイル : 『三文オペラ』

メッキース : マックス・ラーベ
ピーチャム : HK グルーバー
ピーチャム夫人 : ニナ・ハーゲン
ポリー : ソーナ・マクドナルド
ブラウン : ハンネス・ヘルマン
ルーシー : ヴィニーベーヴェ
ジェニー : ティムナ・ブラウアー
ナレーター : ユルゲン・ホルツ

HK グルーバー/アンサンブル・モデルン

RCA RED SEAL/74321-66133-2




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