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東へ西へ、南から北へ、人々の往来が育む中世、吟遊詩人の世界。 [before 2005]

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ラヴェルの音楽には、その母親越しに、バスクやスペインの色彩が反映されていて、ブーレーズの総音列音楽は、新ウィーン楽派、ヴェーベルンの音楽から出発している。再び音楽史のメインストリームへと返り咲いた20世紀のフランス音楽というのは、思いの外、汎ヨーロッパ的なのかもしれない。そして、かつてフランス音楽がメインストリームを占めていた頃、ゴシック期も、汎ヨーロッパ的に音楽が醸成されていた。いや、中世のフランス文化というのは、まさに「フランス」の文化が形成されようという時期で、なかなか興味深い時代。そもそも、フランス語がまだ存在しておらず、北ではオイル語(古代ローマ以前のガリアの影響を残す言葉で、後のフランス語に発展... )が、南ではオック語(古代の地中海文化圏の名残りをより多く残し、現在のカタルーニャ語に近い... )が話され、中世のフランスは、この言語境界を境に、政治的にも、文化的にもせめぎ合っていた。そして、この南北の融合(政治的には、北による南の制圧... )により、豊かな「フランス」が誕生することになる。
そんな、中世フランスの姿を捉える興味深い1枚... 古楽アンサンブル、アラ・フランチェスカの歌と演奏で、中世の宮廷を彩った吟遊詩人たち、南のトルバドゥール、北のトルヴェールによる音楽を取り上げる、"RICHARD CŒUR DE LIEN"(OPUS 111/OP 30-170)。前回、聴いた、教会音楽にも見受けられた、中世フランスにおける南から北への音楽の伝播を追う。

クラシックで、吟遊詩人というと、ヴェルディのオペラ『イル・トロヴァトーレ』が思い浮かぶ。アウトローで、ボヘミアンで、歌も歌える流しの騎士(オペラでは、ジプシーに育てられていた... )、そんなイメージ?しかし、ルネサンスが始まろうとする15世紀のスペインを舞台にしたロマン主義のオペラに、中世の吟遊詩人像を求めてしまうと、狂いが出てしまう。じゃあ、実際の吟遊詩人とは、どんなイメージだったのか?これが、なかなか興味深い。最初の吟遊詩人=トルバドゥールと伝えられる存在が、中世フランス切っての大領主、ポワティエ伯にしてアキテーヌ公、ギヨーム9世(1071-1126)。けしてアウトローでも、ボヘミアンでもなかった(ま、教会から何度か破門されるようなヤンチャな人物だったようだけれど... )。つまり、トルバドゥールとは、やんごとなき人々が占めていて、中世における宮廷文化の花形だった。となると、平安時代の宮中で、天皇も大臣も和歌を読んだ感覚に近いのかもしれない。宮廷における愛(これがまた独特でして、主君の妻への叶わぬ愛を歌うという... )を歌ったトルバドゥールたち、宮廷の一員として、詩作し、それを歌うことは、嗜みだったと言えるのかもしれない。一方で、貴族ではないプロのトルバドゥールたちもいた。まさに中世のシンガー・ソングライター!職人から没落騎士、さらには農閑期の出稼ぎまで、様々なバックボーンを持った人々が詩作し、宮廷に留まらず、街中で歌い、大道芸とも結び付き、ジョングルールと呼ばれ、宮廷では貴族たちの伴奏を務める楽師、ミンストレルとしても活躍した。
そんな広がりを持っていたトルバドゥールの文化は、どこからやって来たのか?ギヨーム9世は、1101年の十字軍に参加しているのだけれど、その時、アラブの吟遊詩人たちの音楽に触れ、自らもその影響下で詩作し、歌い始めたらしい... いや、実際のところは、よくわからないものの、当時、爛熟期を迎えていたイスラム文化からの影響は十分に考え得る。十字軍を契機に人と物が文明を越えて行き来するようになった時代、フランスの南西部の大部分を占めるギヨーム9世の領地は、サン・ティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路が通り、巡礼とともに様々な文化が行き交う地であって、新しい音楽を生み出し易い土壌があったのだろう(教会音楽では、サン・マルシャル楽派としてまとめられて来たアキテーヌのポリフォニーがある... )。最初のトルバドゥールたちは、まずポワティエで活躍を始め、やがてフランスの南、オック語圏に広がり、隆盛を極める。そんな南の先進的な文化を北にもたらしたのがギヨーム9世の孫、ポワティエ女伯にしてアキテーヌ女公、アリエノール(1112-1204)。アリエノールが、フランス国王、ルイ7世(在位 : 1137-80)の王妃となったことで、お抱えのトルバドゥールたちもパリの宮廷へと移り、そうして花開くのが、オイル語によるトルヴェールの文化。これにより、中世の世俗音楽は、大いに盛り上がるのだったが、アリエノールはフランス国王と離婚(1152)。で、すぐに再婚するのだけれど、これが後にイングランド国王となるヘンリー2世(在位 : 1154-89)。百年戦争の種が蒔かれることに... という先の話しは置いといて、2人の間に生まれた長男が、トルヴェールでもあったリチャード1世(在位 : 1189-99)。
ここで聴く、"RICHARD CŒUR DE LIEN"は、そのリチャード1世、獅子心王をタイトルとし、リチャード1世の作品(track.3)も含む、南から北へと広がったトルバドゥール/トルヴェールの文化を、器楽曲も挿みつつ、時代のトーンを絶妙に捉えた1枚。まず、トルバドゥール/トルヴェールたちのシンプルな音楽に惹き込まれる!詩こそを大切に歌われる単声のメロディーは、真っ直ぐで、時にキャッチーで、すっと聴く者の心に入り込んで来るよう。その多声音楽では味わえない素直さは、シンガー・ソングライターならではのものであり、かえって現代に近い感覚もあるのかもしれない。また、そうした音楽が、宮廷を中心にしながらも、宮廷の外へ裾野広く展開されたことに、納得。切々と訴え掛けるもの、牧歌的なもの、弾むようなリズムを繰り出すお祭りを思わせる楽しいもの、シンプルではあっても、表情に幅があって、中世文化の豊かさをそこから感じ取ることができる。マショーの前衛感、ルネサンス・ポリフォニーの壮麗さから、トルバドゥール/トルヴェールたちのシンプルな音楽を見つめると、何だか活き活きとしていて、「暗黒時代」とは裏腹に、とても自由な気分を感じてしまう。
で、そんな中世像を紡ぎ出す、ボナルドー(バス)、ブーレイ(テノール)、レーヌ(ソプラノ)の瑞々しい歌声!肩の力の抜けた、気の置けない歌声は、フォークロワなトーンも漂わせつつ、澄んだメロディーを紡ぎ出して、中世をクリアに見せてくれる。そんな歌声を聴いていると、眼前に中世の風景が広がるようで、21世紀のドロドロとした感情を洗い流してくれるかのようで、癒されさえする。という歌手たちは、器用に楽器も奏で、その演奏がまた実に魅力的!シンプルなメロディーを活き活きと伴奏し、歌声を絶妙に引き立て、器楽曲では楽しいリズムを弾けさせる。アラ・フランチェスカの歌と演奏があって、トルバドゥール/トルヴェールたちの姿は、より鮮明に浮かび上がって、「暗黒時代」の闇は払われ、キラキラと輝きながら、中世の人々の息遣いを再現する。すると、遥かに遠い中世の音楽が、身近に感じられ、不思議。

RICHARD CŒUR DE LIEN ・ ALLA FRANCESCA

作曲者不詳 : Lai du Chevrefeuille
作曲者不詳 : L'autrier m'en aloie
リチャード1世 : Ja nuns hons pris
ギオ・ド・ディジョン : Chanterai por mon coraige
シャストラン・ド・クチ : Li nouviaus tens et mais et violete
作曲者不詳 : Vocis tripudio
シャストラン・ド・クチ : A vous, amant, plus qu'a nule autre gent
作曲者不詳 : Canticum exercuit - Canticum letitie
コノン・ド・ベチューヌ : Bien me deusse targier
ガス・ブリュレ : Quant voi la flor botoner
作曲者不詳 : Redit etas aurea
作曲者不詳 : Christus patris gratie - Vineam mean plantavi - Offerat ecclesia
ベルナルト・ド・ベンタドルン : Quan vei la lauzeta mover
ガウセルム・フェイディット : Fortz causa es que tot lo major dan

アラ・フランチェスカ

OPUS 111/OP 30-170




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