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生誕150年、エイミー・ビーチ、堂々たるロマン主義、ピアノ協奏曲。 [2017]

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音楽、musicの語源は、ギリシア神話の文芸(音楽を含む... )を司る女神、musa(英語で、ミューズ... )に因む。古代、音楽は、実に女性に因るものだったか?で、その後、どうだろう... 音楽史を振り返れば、女性の存在は希薄。長い間、教会で女性が歌うことは忌避されていたし、バロック期のオペラでは、女性が舞台に立つことが禁じられていたこともあった。が、音楽史を丁寧に見つめると、興味深い女性たちの存在がちらほら浮かび上がって来る。中世のマルチ・クリエイター、修道女で、神秘家で、作曲家のヒルデガルト・フォン・ビンゲン(1098-1179)... ルネサンス期のフェッラーラの宮廷で活動し、ジェズアルドらに大いに刺激を与えた女声ヴォーカル・アンサンブル、コンチェルト・デッレ・ドンネ... 17世紀、ヴェネツィアで活躍したシンガー・ソングライター、バルバラ・ストロッツィ(1619-77)... 同じくヴェネツィアで人気を博した、孤児院付属音楽学校の女子オーケストラの数々... ヴェルサイユを彩ったマエストラ、エリザベト・ジャケ・ド・ラ・ゲール(1665-1729)... そして、お馴染み、ピアノのヴィルトゥオーザ、クララ・シューマン(1819-96)... でもって、今回、取り上げるのが、アメリカの女性作曲家の草分け、エイミー・ビーチ(1867-1944)。今年、生誕150年のメモリアルを迎える。
ということで、hyperionの"The Romantic Piano Concerto"のシリーズから、ダニー・ドライヴァーのピアノ、レベッカ・ミラーの指揮、BBCスコティッシュ交響楽団の演奏で、エイミー・ビーチのピアノ協奏曲に、イギリスの作曲家、ドロシー・ハウエル、フランスの作曲家、セシル・シャミナードの作品も取り上げる女流ピアノ協奏曲集(hyperion/CDA 68130)を聴く。

エイミー・ビーチ(1867-1944)。
ニュー・ハンプシャー州、ヘニカーで、旧家に生まれたエイミー(旧姓は、マーシー・チェイニー... )。結婚するまで、ピアニストを目指していたという母の下、早くから音楽に触れ、幼くして驚くべき才能(すでに作曲を試みていた!)を見せる。1875年、一家は、ボストンの北隣、チェルシーに移ると、ドイツからやって来たピアニスト、エルネスト・ペーラボ、カール・ベールマン(祖父が、ウェーバーらにインスピレーションを与えたクラリネットのヴィルトゥオーゾ、ハインリヒ・ベールマン... )から、本場ヨーロッパ仕込みのピアノを学ぶことに... さらに、14歳になると本格的に作曲を学び始め、ボストン響の常任指揮者、ヴィルヘルム・ゲーリケにアドバイスを受ける機会にも恵まれる。そして、1883年、16歳にして、ボストン響のコンサートで、ピアニストとしてデビュー!批評は好評、聴衆は熱狂、一躍に人気ピアニストとなる。が、旧家のお嬢様であるエイミー、母親の強い意向があって、1885年、18歳にして、24歳年上のボストンの外科医、ヘンリー・ビーチと結婚。ピアニストを引退し家庭に入るわけだが、この夫が大した人物で、エイミーに作曲に専念するよう促す。そうして書かれたミサが、1892年にボストンで初演されると、アメリカ初の女性作曲家として注目を集め、交響曲「ゲール風」(1896)、ここで聴くピアノ協奏曲(1899)と、立て続けに大作を発表し、作曲家として存在感を示す。1910年に夫が不慮の事故で亡くなると、演奏活動も再開、間もなくヨーロッパ・ツアー(1911-14)へと出て、自作を披露、その名声は国際的なものとなる。
で、そのピアノ協奏曲(track.2-5)なのだけれど、1楽章の冒頭から、ドヴォルザークが聴こえて来る?「新世界」の1楽章の、あの有名なフレーズの断片が、チラチラしている?というあたりが、まず興味を引く。1892年から3年半、ニューヨークで教鞭を取ったドヴォルザーク。「新世界」は、1893年に作曲され、同年、ニューヨーク・フィルにより初演されているわけだけれど、それをエイミーも聴いたか?あるいは、アフリカ系の人々のメロディー、ネイティヴ・アメリカンのメロディーを取り込んだとも言われる「新世界」だけに、共通する素材を用いたということか?ちょっと気になる。のだけれど、微に入り細に入りしていると、このコンチェルトの魅力は掴めない!いやー、ピアニスト、エイミー・ビーチの本領発揮というべきか、ヴィルトゥオージティに溢れ、華麗!でもって、ヨーロッパに伍す重厚な音楽を展開しての、堂々たるロマン主義!ドヴォルザークに負けずキャッチーでもあって、それが、ちょっとガーリーな印象を与えるところも... 聴き応えは男性作曲家にまったく引けを取らないのだけれど、19世紀、男性作曲家たちが煮詰めて来た権威主義的な緊張を、しなやかに緩めて、ポップな表情をさり気なく添えるのが、エイミー流。特に終楽章(track.5)の花々しさには、魅了される。近代以前、アメリカの音楽の黎明期の誠実さと、ガーリーがアクセントとなった充実のピアノ協奏曲は、もっと知られるべき魅力に充ち満ちている。
という、エイミーの後で取り上げられるのが、エイミーと文通していたという、サロン向けの音楽で一世を風靡したフランスの作曲家、シャミナード(1857-1944)のコンツェルトシュトゥック(track.6)。エイミーのコンチェルトから遡ること11年、1888年の作品は、わざわざドイツ語でkonzertstück=小協奏曲としているだけに、ドイツ風?いや、『さまよえるオランダ人』でも始まりそうなワーグナー風の出だしが、まずに耳に飛び込んで来て、びっくり。の後で、国民楽派を思わせる人懐っこいテーマが流れ出し、その後ろでは、フランスらしくエキゾティックなトーンに彩られて、もうテンコ盛り。で、いいのか?!と、ツッコミを入れたくなってしまうものの、この多国籍料理感こそが、おもしろい!そこから、最初に戻りまして、エイミーの前に取り上げられる、イギリスの作曲家、ハウエル(1898-1982)のピアノ協奏曲(track.1)。第1次大戦後、1923年に作曲された作品だけれど、直球のロマン主義。いや、このあたり、モダニズムに染まらなかったイギリスの律儀さを感じる。一方で、ブリテンを予感させる瑞々しさも見出せるようで、イギリスの音楽の独自性もそこはかとなしに見受けられ、魅力的。
という、女性作曲家による3つのピアノ協奏曲を聴かせてくれるのが、ドライヴァー... その丁寧なタッチは、作品そのものをすっきりとすくい上げ、下手にロマンティックを強調することなく、淡々と向き合うようでもあり、なればこそ、一音一音が輝きを増すようで、19世紀、ヴィルトゥオーゾの時代の華麗さが際立つ。一方、ミラーの指揮、BBSスコティッシュ響の演奏は、よりじっくりとそれぞれの作品に向き合って、それぞれの癖のおもしろさをしっかりと鳴らして来るのか... シャミナード(track.6)の派手さ、ハウエル(track.1)の真面目さ、そして、エイミー(track.2-5)の端正さ... ロマン主義の内にある音楽を、巧みに幅を持たせて、より色彩的に繰り広げる。でもって、最後のシャミナードに向けて盛り上げる!

BEACH ・ CHAMINADE ・ HOWEEL PIANO CONCERTOS
DANNY DRIVER ・ BBC SCOTTISH SYMPHONY ORCHESTRA / REBECCA MILLER


ドロシー・ハウエル : ピアノ協奏曲 ニ短調
エイミー・ビーチ : ピアノ協奏曲 嬰ハ短調 Op.45
セシル・シャミナード : コンツェルトシュトゥック 嬰ハ短調 Op.40

ダニー・ドライヴァー(ピアノ) レベッカ・ミラー/BBCスコティッシュ交響楽団

hyperion/CDA 68130




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