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都市に捧げられる現代の叙事詩、ゲッベルス、"Surrogate Cities"。 [before 2005]

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ままならない一日、心が波立っていた夜、ふと通り掛かった駐輪場の向こうから、『アニー』の、あの有名なナンバーが聴こえて来る。暗くてよくは見えなかったものの、レッスンの帰りなのか、自転車を準備するお母さんの横で、女の子が、促されて、一節歌っているよう。その歌声は、高音に苦戦、壊れたレコード・プレイヤーのように、同じところを何度かループするのだけれど、思いの外、確かなもの(夜だから声を張るようなことは無いのだけれど... )で、ちょっと聴き入ってしまう。で、トゥモロー、明日は幸せと歌うわけだ。おもしろいなと思う。良かれと思ったことが見事に裏目に出て、倍の嫌な思いをした後で、耳に入って来る、トゥモロー、明日は幸せ... このblogを通じて、音楽と密に付き合って来ると、時折、音楽そのものからメッセージをもらうような瞬間がある。ま、傍から見れば、そんな風にこじつけているだけなのだけれど、こじつけたくなるような魔法を感じてしまうのが音楽かなと... いや、やっぱり6月はメランコリックになりがち... なので、少しピリっとした音楽を聴いてみる。
現代音楽のスペシャリスト、ペーター・ルンデルの指揮、ドイツのユース・オーケストラ、ユンゲ・ドイチェ・フィルハーモニーの演奏、ジャズ・ヴォーカル、ジョスリン・B・スミスに、マルチなミュージシャン、デイヴィッド・モスの歌で、作曲家にして演出家、ドイツの鬼才、ハイナー・ゲッベルスの1994年の作品、"Surrogate Cities"(ECM NEW SERIES/465 338-2)を聴く。

前回、聴いた、メレディス・モンク(b.1942)の素朴なサウンドから一転、スリリングなハイナー・ゲッベルス(b.1956)の音楽を聴くのだけれど... シンプルな音楽を紡ぎ出して、時間を溶かしてしまうメレディスに対して、ジャンルに捉われず様々な要素をつないで、鮮烈に現代を切り取るゲッベルスの音楽性は、見事に真逆を行く。一方で、メレディスも、ゲッベルスも、舞台から音楽を生み出しているのは、興味深い共通項... 音楽をヴィジュアル化、演劇化する大胆な試み、"ミュージック・シアター"というスタイルで、1990年代、注目を集めたゲッベルスだけれど、その音楽は、劇場ならではのライヴ感を孕み、いわゆる難解な"ゲンダイオンガク"とは一線を画し、ジャズやロックといった感性を取り込んで、切っ先鋭く、現代社会を生きる者の耳に迫って来る。でもって、ここで聴く"Surrogate Cities"が、まさに!中世以来、大市が立ち、物流の拠点であり、現在はヨーロッパ金融の中心のひとつでもある、国際都市、フランクフルトの、建都1200年を記念して、1994年に制作された"Surrogate Cities"は、フランクフルトについて語るのではなく、フランクフルトが象徴する都市の特性を、ノワールな視点から描き出す?現代の叙事詩とでも言おうか... 都市にいて体感する感覚、疾走感、ダイナミズム、下世話さ、ままならなさを、ジャズやロックなど、現代人にダイレクトに訴え掛ける要素を大胆に引き込んで、さらにはサンプリングといった技術も用い、オーケストラと2人のヴォーカルで、刺激的な音楽を繰り広げる。
その始まりは、サンプラーとオーケストラのための組曲(track.1-10)。かつて、テレマンが音楽監督を務めたフランクフルトの記憶(テレマンもフランクフルトのために組曲を書いている... )としてなのか、シャコンヌ、アルマンド、ジーグなど、古風な舞曲の形を用いつつも、サンプリングされた古い歌声、バンドの演奏、都市が放つノイズなどが巧みに取り込まれ、都会の雰囲気で聴く者を包む。続く、ジョスリン・B・スミスが歌う、"The Horatian"(track.11-13)は、時代を遡り、ローマの建国史に登場するホラティウス兄弟の悲劇を歌うのだけれど、古代ローマ版、ウェスト・サイド・ストーリーとも言える物語を、エモーショナルに歌い上げるジョスリン・B・スミス... まるで、ミュージカルを見るようなドラマティックさに、グイグイ惹き込まれる!一転、オーケストラによる"D&C"(track.14)は、カフカの『町の紋章』にインスパイアされ、ストラヴィンスキーやバルトーク、あるいはヴァレーズなど、古き良き近代音楽を懐古するような、ヘヴィーなサウンドが魅力的。そこから、デイヴィッド・モスが、シャウト!ピアノを伴って疾走するオーケストラに乗り、歌う、"Surrogate"(track.15)は、ヒューゴ・ハミルトンの『サロゲイト・シティ』からの一節... で、最後は、ジョスリンのけだるいハミングが漂う中、モスが朗読するポール・オスターの小説『最後の物たちの国で』からの一節、"in the Country of Last Things"(track.16)。オーケストラは、わざとらしいくらいに、往年の映画の場面転換のような音楽を奏で、朗読に合いの手を入れる。
さらりと聴けば、クール!まるで、マーベル・コミックの世界を覗き込むような感覚があって、ゾクゾクさせられるのだけれど、それが何を歌い、何を描き出そうとしているかを知ると、また違った奥行きを見出し、都市文学に裏打ちされた、新たなファンタジーを味わうことに... 我々が知る都市のリアルを、見事にオーケストラに落とし込みながらも、聴き進めれば、聴き進めるほど、我々の知る都市とはズレが生じ、パラレル・ワールドに迷い込んでしまうような恐さを生むファンタジー。それこそが、Surrogate City=代替都市なのか?そんな臨場感を生む、ルンデルの指揮、ユンゲ・ドイチェ・フィルの演奏... ユース・オーケストラの、若いからこその真っ直ぐな音楽性が、ゲッベルスのサウンドをニュートラルに捉えて、ジャンルに捉われない音楽の、何者でもない魅力を鋭利に響かせる。その鋭利さの上で、瑞々しく歌い上げるジョスリン、呟きからシャウトまで、表情に長けたモスのヴォイス・パフォーマンスがあって、"ミュージック・シアター"を生み出したゲッベルスの音楽の演劇性は際立ち、"Surrogate Cities"の世界に引き摺り込まれてしまう。それは、アカデミックな余所余所しさが無いからこそのもの... ゲッベルスの音楽が放つ、ヒリヒリするような現代性、ズキズキするような同時代性に触れると、これこそが現代音楽、現代の音楽なのだなと強く感じ、その魅力に打ち抜かれる。

HEINER GOEBBELS SURROGATE CITIES

ハイナー・ゲッベルス : サンプラーとオーケストラのための組曲
ハイナー・ゲッベルス : The Horatian 〔3つの歌曲〕 *
ハイナー・ゲッベルス : D & C
ハイナー・ゲッベルス : Surrogate *
ハイナー・ゲッベルス : in the Country of Last Things **

ペーター・ルンデル/ユンゲ・ドイチェ・フィルハーモニー
ジョスリン・B・スミス(ヴォーカル) *
デイヴィッド・モス(ヴォーカル) *

ECM NEW SERIES/465 338-2




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