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コンチェルトという劇場、パガニーニ、シュポーアによる華麗なる舞台。 [2006]

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スタンダール曰く、ナポレオンが去って、ロッシーニがやって来た。そう、ロッシーニの時代というのは、ポスト・ナポレオンの時代となる。それは、ナポレオンが引っ掻き回したヨーロッパを、如何に元の状態に戻すかを話し合ったウィーン会議により形作られた、ウィーン体制、保守反動の時代。そうした時代に、巨匠、ベートーヴェンは悩まされ、新世代、ロッシーニは波に乗った。キラキラと弾けるブッファ、格調高くも華麗なるセリア... ロッシーニのオペラを改めて振り返ると、アンシャン・レジームに一世を風靡したナポリ楽派の記憶が最上の形で響き出すように感じる。そのあたりが、過去を顧みる時代の気分にぴったりだったのだろう。しかし、革命と戦争を経て再現される過去は、フェイクに過ぎない... ポスト・ナポレオンの時代というのは、どこか禍々しく、現実逃避的で、独特な軽薄さが漂う。そのあたりを象徴するのが、ヴィルトゥオーゾたちの音楽なのかもしれない...
ということで、ポスト・ナポレオンの時代に活躍した2人のヴィルトゥオーゾに注目。ヒラリー・ハーンのヴァイオリン、大植英次の指揮、スウェーデン放送交響楽団の演奏で、1811年に作曲された、パガニーニの1番のヴァイオリン協奏曲と、1816年に作曲された、シュポーアの8番のヴァイオリン協奏曲、「劇唱の形式で」(Deutsche Grammophon/477 6232)を聴く。

まずは、パガニーニの1番のヴァイオリン協奏曲(track.1-3)を聴くのだけれど... 久々に聴いてみると、その軽さに、クラクラしてしまう。こんなにも軽かった?いや、これが時代の気分だったか... そんな風に見つめれば、感慨深いものがある。で、改めて、その軽さと向き合ってみると、興味深い発見がある。例えば、1楽章、ジャジャーン!その始まりの、オーケストラによる、まあ見事に勿体ぶった前奏、ほとんどオペラの序曲であって... この時代のコンチェルトは、ソロが登場する前に、しっかりとしたオーケストラによる前奏を聴かせるのが常だけれど、パガニーニは、それがより際立っていて、コっテコテ... 自らの登場をより印象的なものにしようとする、あられもないあざとさが、かえって何とも言えない味わいを生み出す。そうして、きっちり盛り上げてから始まる、めくるめく技巧的なパッセージの数々!技巧に特化して生まれる繊細な美しさは、一種独特で、その姿は、どこかバレエのプリマの至芸を見るようで、音楽というより、より身体的なイメージを喚起させられるのか、おもしろい!そんな1楽章から一転、2楽章、アダージョ(track.2)では、ヴァイオリンがしっとりと歌い出し、また違ったベクトルで音楽が展開され、興味を引く。オーケストラはドラマティックな伴奏を奏で、オペラのシェーナのような効果を生み、その中を滔々と歌い上げるヴァイオリン... となると、バレエのプリマから、オペラのプリマへと変身するようで、またおもしろい。そこからの終楽章、ロンド(track.3)は、ロッシーニのオペラのアリア・フィナーレのようで、鮮やかにコロラトゥーラを決めながら、華麗に歌い上げる、そんな感じだろうか... 改めて、パガニーニのコンチェルトを聴いてみると、劇場にいるような気分になる。つまりそれはショウ・アップされた音楽であり、エンターテイメントなのだなと...
さて、パガニーニとも面識のあったシュポーアの8番のヴァイオリン協奏曲、「劇唱の形式で」(track.4-6)が続くのだけれど、これがまた興味深い。ある意味、アウト・サイダーとして地位を確立したイタリアのヴィルトゥオーゾ、パガニーニ(1782-1840)に対して、音楽的に恵まれた環境に育ち、きちんとした教育を受け、オール・ラウンドで活躍したドイツのヴィルトゥオーゾ、シュポーア(1784-1859)。ショウ・アップされたエンターテイメントとしてのパガニーニのコンチェルトの後だと、シュポーアのコンチェルトは音楽として確かな密度が感じられ、安心感がある。けれど、パガニーニの、味わいを生む軽さに触れてしまうと、ちょっと優等生っぽさが気にならなくもないか... 一方で、両者に共通するのが、舞台を意識させる点。そして、よりきちんとした形で舞台を示しているのがシュポーア。「劇唱の形式で」というサブ・タイトルが示す通り、オペラのシェーナとアリアを思わせる展開がコンチェルトに落し込まれていて、そこにはオペラを見るような感覚があり、ソロは、やはりプリマのよう... いや、パガニーニ以上にオペラを思わせる「劇唱の形式で」。より歌うことを意識して奏でられるヴァイオリンのメロディーは、ベルカント・オペラを聴くようで、艶やか。そこには、オペラでも成功していたシュポーアの経験が活きているのだろう。そして、ヴァイオリンを歌わせることで、ロマン主義も引き寄せているあたり、新しい時代の到来も見出す。
そんな、ヴィルトゥオーゾ・コンチェルトをしっかりと聴かせてくれるハーン。彼女らしい清潔感のある音色が、パガニーニ、シュポーア、それぞれのありのままをニュートラルにすくい上げ、新たな発見を促すよう。何より、パガニーニ、シュポーアという、同時代の音楽を並べることで、時代の空気感を立体的に響かせる巧みさ!パガニーニ、シュポーアのそれぞれのおもしろさ、魅力、あるいは未熟さ、軽薄さをも含め、丁寧に並べることで、時代を生々しく捉える。そこから漂い出す、思い掛けない味わい深さ... なればこそ、強調される舞台感覚... このドラマティシズムがとても興味深い。で、それらをナチュラルに聴かせてしまうハーン。ヴィルトゥオーゾ・コンチェルトはそう容易いものではないはずだけれど、そういうものを、一切、意識させない凄さ... 確かな技術があってこそのナチュラルに、感服。そんなハーンを卒なく支える大植、スウェーデン放送響の演奏も、ヴィルトゥオーゾ・コンチェルトならではの背景に徹し... というより、少しチープなくらいに振る舞って、花やかなプリマ=ソロを引き立てる、絶妙な仕事ぶりが乙。それらが相俟って、何とも言えない雰囲気を創り出して来るあたり、なかなかのセンス!そうして、ヴィルトゥオーゾの時代に、グイっと惹き込まれて行く。

PAGANINI • SPOHR: VIOLIN CONCERTOS
HAHN • SWEDISH RADIO SYMPHONY ORCHESTRA • OUE


パガニーニ : ヴァイオリン協奏曲 第1番 ニ長調 Op.6
シュポーア : ヴァイオリン協奏曲 第8番 イ短調 Op.47 「劇唱の形式で」

ヒラリー・ハーン(ヴァイオリン)
大植英次/スウェーデン放送交響楽団

Deutsche Grammophon/477 6232




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