So-net無料ブログ作成
検索選択

戦火の時代、失われた華麗さを求めて、ベートーヴェン、「皇帝」。 [before 2005]

4477712.jpg
さて、ベートーヴェンのピアノ協奏曲を、作曲年代順に聴いて来ての最後、5番、「皇帝」です。で、この5番が作曲された年、とうとう、戦争が、直接、ウィーンを襲う事態に... 1805年、アウステルリッツの戦いに大敗したオーストリアは、プレスブルクの和約を結び、ナポレオン戦争から離脱。翌、1806年には、皇帝、フランツ2世が、中世以来、西ヨーロッパの君主の筆頭である神聖ローマ皇帝の位を降り(以後、オーストリア皇帝... )、フランス皇帝、ナポレオンに取って代わられる。しかし、リベンジを窺うオーストリア... 再び軍備を整え、1809年、4月9日、フランスに宣戦布告、バイエルンへと侵攻を試みるのだったが、フランス軍に押し戻されてしまうオーストリア軍。5月9日には、ウィーン近郊がフランス軍に占領され、翌、10日には、包囲されてしまう、ウィーン... そして、11日の夜、突然、砲撃が始まる。ハイドンは、屋敷に留まり怯える使用人たちを安心させようと気を吐き、ベートーヴェンは、弟の家の地下室に避難、失われつつある聴力を爆音から守ろうと必死で枕に頭を埋めていた。その砲撃は、一晩中、続き、翌朝、オーストリアの守備隊が降伏。ウィーンは、フランス軍に占領される。
そうした年に書かれた、ベートーヴェンのピアノ協奏曲... ロバート・レヴィンのフォルテピアノ、ジョン・エリオット・ガーディナー率いるオルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティークの演奏で、ツィクルスの最後、5番、「皇帝」(ARCHIV/447 771-2)を聴く。

ジャーン!オーケストラの堂々たる和音の一撃が、ピアノの華麗なカデンツァを呼び覚まし、めくるめく音楽が始まる5番、「皇帝」(track.1-3)の1楽章... それはまるで、宇宙の誕生を見せられるかのよう... 何か、とても根源的なイメージを喚起しつつ、華麗!いや、改めて聴いてみると、こんなに印象的な始まり方のコンチェルト、他にあるだろうか?そこから一転、快活なメロディーがオーケストラにより奏でられ、これって交響曲だった?と思わせるほど、たっぷりと時間を掛けて前奏が織り成される。で、焦らしに焦らされて登場するピアノの流麗なこと!5番、「皇帝」の1楽章は、斬新かつ、華麗で、流麗で、思いの外、盛りだくさんな音楽に、ワクワクさせられる。何より、ベートーヴェン、最後のピアノ協奏曲は、それまでのどのコンチェルトよりも充実していて、まさに「皇帝」の名、そのままに、風格を漂わせて、圧巻!本当に戦争なんてあったのだろうか?と、思わせるほど... なのだけれど、2楽章、アダージョ(track.2)の、モーツァルトの時代へと帰るような美しく抒情的な音楽を聴いていると、昔を懐かしむようで、何とも言えない心地になる。フランス革命戦争、ナポレオン戦争と、それまでの穏やかな時代からは一転、荒ぶる時代が、ベートーヴェンの音楽に力強さを与えたなら、ウィーンへの砲撃という現実の戦争を目の当たりにしたことで、どこか逃避的に華麗さが強調されるのか?18世紀、穏やかだった頃を思い起こさせる華麗さを、今一度、19世紀のスケール感を以って響かせるのが、5番、「皇帝」なのかもしれない。そうして、神聖ローマ皇帝の御膝元、ウィーンの栄光を再現するのか... となると、「皇帝」とは、もはやこの世に存在しない神聖ローマ皇帝に思えて、切なくもある。華麗さの中に、切なさを籠める... この味わい深さに、改めて魅了される。
ということで、レヴィンによるベートーヴェンのピアノ協奏曲のツィクルス、完遂なのだけれど、もうひとつ、ベートーヴェンのピアノ協奏曲風の作品を取り上げる、レヴィン... 5番、「皇帝」が作曲される前年、1808年に作曲された合唱幻想曲(track.4)。その正式な名称、「ピアノ、合唱、オーケストラのための幻想曲」。一見、ピアノ協奏曲風だけれど、そう単純なシロモノではない合唱幻想曲... 冒頭はピアノの独奏(初演では、ベートーヴェン自身による即興演奏!)が続き、やがてオーケストラが加わり、6人の独唱が加わり、最後に合唱が加わって、壮麗に締めるという、ちょっと他には探せない音楽。いや、第九に似ている?合唱幻想曲は、ベートーヴェンが20代半ばで作曲した歌曲「愛の返答」のメロディーが引用され、第九の終楽章、歓喜の歌のテーマのように、そのキャッチーなメロディーが様々な形で繰り返され、やがて壮麗に賛歌を歌い上げ... つまり、第九を準備した音楽とも言えるわけだけれど... いやいや、歓喜の歌と、「愛の返答」が、ズバリ、似ている!いやいやいや、核たるテーマばかりでなく、いろいろ似ているのでは?!改めて聴いてみると、ここも、あそこも、第九に思えて来る。第九が完成するのは、合唱幻想曲の16年後、1824年だけれど、すでにひな型は、そこに存在していた。ベートーヴェンにとっての19世紀、最初の10年は、その個性を確立し、次々に傑作を生み出した時代。その時代に、晩年の、あの達観したような音楽を予告する作品が生まれていたとは... とても興味深く、何よりも感慨深い。
そんな、ベートーヴェンの潮目となる、1808年(合唱幻想曲)、1809年(5番、「皇帝」)を切り取った、レヴィンの視点に感服。単にツィクルスかと思いきや、ベートーヴェンの歩みこそすくい上げるレヴィンなのだろう... 最初の1枚で、1番と2番を、作曲年代順にひっくり返して取り上げていたことに象徴されるのかもしれない。そうして、辿って来た歩みからは、ベートーヴェンの生きた時代が浮かび上がる。そうして、ただピアノ協奏曲を聴くに留まらない味わいを見出し、惹き込まれる。一方で、その演奏は、実に淡々としたものであり、多くを語ることはせず、時に朴訥に感じられるところすらあるのだけれど、それくらいで初めて、生々しいベートーヴェン像を捉え、より共感を生む音楽を紡ぎ出せるのだろう。で、最後、5番、「皇帝」の、何とも言えぬ華麗さ、合唱幻想曲の第九を予告する達観を、ありのままを響かせることで強調し、魅了されるばかり... ガーディナー+オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティークもまた、よりスケールを以って華麗さ、達観を捉え、見事。振り返れば、ツィクルスを進めるほどに、味わい深い音楽を響かせ、ベートーヴェンの成長を見事に捉えていたなと、感心。で、その最後では、見事に豊かなサウンドで彩り、より深く、魅了される。

BEETHOVEN: PIANO CONCERTO NO.5 ・ CHORAL FANTASY
LEVIN/GARDINER/ORCHESTRE RÉVOLUTIONNAIRE ET ROMANTIQUE


ベートーヴェン : ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 Op.73 「皇帝」
ベートーヴェン : 合唱幻想曲 ハ短調 Op.80 *

ロバート・レヴィン(ピアノ : 1812年製、ラグラッサ)
モンテヴェルディ合唱団 *
ジョン・エリオット・ガーディナー/オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティーク

ARCHIV/447 771-2




nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この記事のトラックバックURL: