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動乱の時代、育まれるベートヴェンという個性。 [before 2005]

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ハイドンが書いた、エステルハージ侯爵夫人、マリア・ヨーゼファ・ヘルメンギルデの命名日の祝祭のための6つのミサ。1796年から1802年まで、毎年、同じ日(命名日は9月8日だが、祝祭はその日を中心に行われる... よって初演日はまちまち... )のために書かれた音楽は、どこか定点観測のようで、そのひとつひとつを追うと、ポスト・モーツァルトの時代の激動が浮かび上がる。例えば、1797年の命名日のために用意されていた戦時のミサは、まさにその名の通り、フランス革命戦争(1792-1802)の最中であり、翌、1798年の命名日のために作曲されたネルソン・ミサは、対仏大同盟で活躍したイギリスの提督、ネルソンに因む。それでいて、ちょうどエステルハージ侯爵家のオーケストラから管楽器奏者がリストラされ、シンプルな編成による音楽となっている。これも、戦時下の影響だろうか... 1789年のフランス革命以来、大きく揺さぶられるヨーロッパ。革命の理想は間もなく幻想となり、恐怖政治、殺戮、破壊、侵略戦争と、それまでの穏やかさが考えられない状況が襲い掛かる。が、その荒ぶる時代が、作曲家たちに刺激を与え、よりパワフルで、ダイナミックな音楽を生み出す。そうした時代の申し子が、ベートーヴェンなのかもしれない。荒ぶる時代こそが、その希有な個性を形作ったか?
ということで、ベートーヴェンのピアノ協奏曲... 18世紀末、モーツァルトの影響下にあった2番、ベートーヴェンという個性が生まれようとしていた1番に続いて、世紀が改まっての3番と4番、ロバート・レヴィンのフォルテピアノ、ジョン・エリオット・ガーディナー率いる、オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティークのツィクルス、第2弾(ARCHIV/457 608-2)で聴く。

まずは、1803年に完成した3番のピアノ協奏曲(track.1-3)。1楽章、序奏の、何とも言えない不穏さ... 複雑を極めるヨーロッパ情勢と、フランス軍の圧力を受けるハプスブルク帝国に漂う気分そのものなのかもしれない。モーツァルトが活躍した花やぐ古典主義の時代には無かった仄暗さが、時代の空気の変化を如実に物語っている。そして、その仄暗さから、ふわっと現れる栄光に充ちた輝き!そこに、ベートーヴェンらしさが明確に示され、2番、1番と来て、3番に触れると、まさに覚醒した音楽というものを、強く意識させられる。一転、2楽章、ラルゴ(track.2)では、モーツァルトを思わせる美しくナイーヴな音楽が流れ出し、一見、時代を遡るようなのだけれど、よくよく聴けば、そのナイーヴさ、モーツァルトよりも深く、荒ぶる時代なればこその厭世を思わせる。つまり、時代が表情を濃いものとするのか、18世紀には無い、19世紀の音楽のエモーショナルさに、腑に落ちるものを感じる。続く、終楽章のロンド(track.3)には、ショパンを思わせる民俗調のキャッチーさが表れていて、さり気なくロマンティック。ああ、19世紀なんだな... そんな思いにさせてくれる、時代をしっかりと見据えた音楽に、胸空くような心地良さを覚える。で、充実した響きに、パンチのある楽想、なればこその確かな聴き応えは、翌、1804年に完成する「英雄」に通じるものもあるのか... まさに、作曲家として大きく飛躍を遂げる姿が、この3番にも窺える。
そこから、4番の1楽章(track.4)の穏やかな出だしを聴くと、まるで「田園」を聴くかのよう... 序奏無しに、ピアノが静かにテーマを弾き始め、それをオーケストラが受け継ぎ、牧歌的な情景を描きながら、次第にスケール感を増し、雄大な風景を見せる。まるで、春の丘を登り、どこまでも続く眼下の緑に、晴々とした心地になるような、そんな音楽。いや、ベートーヴェンの音楽は大きい!18世紀の音楽ではけして味わえない場所に立つかのよう。という4番(track.4-6)が作曲されるのは、1805年から翌年にかけて... 「田園」(1808)が作曲される2年前... となると、ここで聴く牧歌的なトーンは、「田園」の準備となったか?そんな1楽章の後の2楽章、アンダンテ(track.5)の冒頭、弦楽による大胆なテーマは、第九を予感させるところがあって、ベートーヴェンが独自の世界へと没入して行くのを感じ、ただならない。荒ぶる時代が19世紀の音楽を創り出したなら、エキセントリックとも言えるベートーヴェンの独自の世界は、作曲家の失聴によるディスコミュニケーションが生み出した孤独の結晶だろうか?弦楽が奏でる鋭いサウンドの前に、消え入りそうなピアノ・ソロの異様なコントラスト... それは、激しい耳鳴りの向こうに聴こえる、自らが奏でるピアノのように思えて、ベートーヴェンを追体験するかのよう。恐ろしさと心細さが押し寄せて来て、心が掻き乱される思い。そこには、19世紀の音楽を越えた緊張感がある。ベートーヴェンの音楽が同時代から際立った存在感を示すのは、失聴による時代からの途絶によるものなのかもしれない。しかし、終楽章(track.6)で再び、輝かしい音楽が戻って、ふわっと緊張は解ける。元来のベートーヴェンは、ウィーンの貴族社会の寵児、人気のヴィルトゥオーゾであって、そうした華やかさに包まれた終楽章は、素敵!
という、起伏のある音楽を、くっきりと響かせるレヴィン。ピリオドのピアノのアンティーク感を活かしながらも、粒立ちの良い音色ではきはきとベートーヴェンの音楽を捉え、形作られようとしているベートーヴェンの個性をナチュラルに際立たせる。その自信に充ち、活き活きとした表情の魅力的なこと!4番の2楽章(track.5)では、絶望も際立たせるも、なればこそベートーヴェンその人に迫って行くようで、ドキドキさせられる。いや、この2楽章は忘れ難い... そして、もうひとつ印象深いのが、3番、4番、それぞれのカデンツァ... レヴィンによるカデンツァは、即興の名手、ベートーヴェンを思い起こさせる即興性に彩られ、スリリング。それでいてヴィルトゥオージティにも溢れ、ここでもベートーヴェンその人に迫るかのようで、惹き込まれる。そんなレヴィンのピアノに共鳴するかのような、ガーディナー+オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティークの演奏!いや、またすばらしい... ピアノばかりでなく、オーケストレーションでも鮮やかな捌きを見せるベートーヴェンの力量を存分に、それでいて明晰に、何より雄弁に響かせて、圧巻!ピアニストによるコンチェルトではなく、シンフォニストとしてのコンチェルトへと至ったベートーヴェンの音楽の聴き応えを鮮やかに繰り出す。

BEETHOVEN: PIANO CONCERTOS NOS.3 & 4
LEVIN/ORCHESTRE RÉVOLUTIONNAIRE ET ROMANTIQUE/GARDINER


ベートーヴェン : ピアノ協奏曲 第3番 ハ短調 Op.37
ベートーヴェン : ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 Op.58

ロバート・レヴィン(ピアノ : 1802年製、ローゼンベルガー/1805年製、ヴァルター&ゾーン)
ジョン・エリオット・ガーディナー/オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティーク

ARCHIV/457 608-2




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