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悩ましき、象徴主義、聖セバスティアンの行方... [before 2005]

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フランス印象主義を代表する作曲家、ドビュッシーなのだけれど、今、改めて、この人の音楽を見つめると、実に悩ましい。ドビュッシーは、学生時代、ロシアでアルバイトをし、西欧とは異なる感性を放ったムソルグスキーから影響を受けている。そういう、ある種の異国趣味は、後にガムランなどに関心を向かわせ、代表作、『海』のスコアの表紙には、北斎を用いたりと、はっきりとアジア趣味が窺える。またそうした脱ヨーロッパ的な切口から、モダニズムへと踏み込み、新たな音楽を生み出したドビュッシー... が、一方で、極めてヨーロッパ的な性格も見せる。そもそもワグネリアンであったし、ルネサンスやバロックの音楽からもインスピレーションを得ていたし、さらには古代ギリシアを題材に用いたり... で、それらを濃縮して、象徴主義に染まり、ミステリアスでもあるのがドビュッシー。まったく以って一筋縄では行かない存在。で、この複雑さが、ドビュッシーの眩惑を生む。
ということで、ジャック・メルシエが率いたイル・ド・フランス国立管弦楽団の演奏、ブライトン・フェスティヴァル合唱団で、ドビュッシーの作品中、特に悩ましく、眩惑される奇作、劇音楽『聖セバスティアンの殉教』(RCA RED SEAL/74321 947882)を聴く。

バレエ・リュスの舞台に立ち、一躍、パリ芸術界のミューズとなった、コンテンポラリー・ダンサーの先駆け、イダ・ルビンシュタイン(1885-1960)。その存在にインスパイアされたイタリアの詩人、ダンヌンツィオ(1863-1938)が書いた戯曲が、神秘劇『聖セバスティアンの殉教』。それは、イダのユニセックスな魅力を、耽美のアイコンを担って来た聖セバスティアンに結び付けるという大胆な試みで... イダがユダヤ系だったこともあり、パリ大司教は激怒、信徒たちに観劇を禁止するという騒動も巻き起こす。で、ドビュッシーは、その劇伴を担当するわけだけれど、ダンヌンツィオによる戯曲は4時間にも及ぶ長大なもの、また最終稿が作曲家の元に届けられたのが、初演の三ヶ月前という厳しい状況。ドビュッシーは、各幕への前奏響曲、イダが踊るための舞曲、シーンを彩る重唱、合唱など、1時間ほどの音楽を作曲、そのオーケストレーションは、友人、カプレに頼み、何とか初演に間に合わせる。そうして、1911年、パリ、シャトレ座にて初演された神秘劇『聖セバスティアンの殉教』は、その長大さに観客が付いて行けず、批評家たちにも不評で、失敗する。という背景を知ると、何とも悩ましい。
しかし、その音楽は、思いの外、充実している。舞台は失敗しても、その後、『聖セバスティアンの殉教』による交響的断章が編まれただけに、ドビュッシーも時間的制約の中で、良い仕事ができたという手応えがあったのだろう。また、第三者によるオーケストレーションも効いている気がする。カプレによる仕事は、職人的な手堅さを見せ、ドビュッシーの手によるオーケストラ作品よりも、シンプルに、すっきりと響くよう... すると、ドビュッシーの音楽性が、かえってクリアにされるようで、おもしろい。そうした中で、まず、印象に残るのは、劇伴として的確に描かれて行く情景の瑞々しさ。ドビュッシーの印象主義が見事に活き、神秘劇の空気感を繊細に織り成して、惹き込まれる。また、そうした情景から、ふと現れる重唱、合唱もまた印象的で... そこには、ドビュッシーの古楽的な試みが聴き取れて、中世の聖歌のような重々しさ、ルネサンスの多声マドリガーレをリヴァイヴァルするような高雅さもあり、どこかベルリオーズのオラトリオ『キリストの幼時』に通じるものを感じる。一方、ダンヌンツィオの怪しげなところも... 3幕、異教神の宗教会議(track.8-14)では、その異教的なあたりを東方的な煌びやかさで彩り、4幕、傷つけられた月桂樹(track.15-17)では、聖セバスティアンの亡骸に起こった奇跡を、シマノフスキを思わせるヴィヴィットさで表現し、象徴主義のエンジンも吹かす。一転、聖セバスティアンが天国に迎えられるフィナーレ(track.19)では、ア・カペラのコーラスで始め、それまでのマジカルさを洗い落し、大きな感動で包む。
そんなドビュッシーの労作、『聖セバスティアンの殉教』を、語りを用い、丁寧に取り上げたメルシエ、イル・ド・フランス国立管。メルシエならではのマニアック路線も、気負うことなく、淡々と響かせることで、作品が持つ力をするりと引き出してしまうのか... 整理され、まとめられた交響的断章とは違い、劇伴の宿命である背景の音楽の弱さを、そのままつなげて、巧みに流れを生み出してしまうメルシエの魔法。そんなマエストロにしっかりと付いて行くイル・ド・フランス国立管の手堅い演奏が、イメージに流されないドビュッシー像を捉え、また、カプレのわかり易いオーケストレーションを活かし、滔々とドラマを紡ぎ出す。傑作、『ペレアスとメリザンド』が持つ濃密さとは比べられないものの、劇伴としての機能性をしっかり感じさせ、なればこその情景の瑞々しさを、一歩引いたところから堪能させてくれる妙。ブライトン・フェスティヴァル合唱団のやわらかなコーラスも、その瑞々しさを引き立て、ソリストたちもまた、麗しい歌声で魅了してくれる。

DEBUSSY: LE MARTYRE DE SAINT-SÉBASTIEN - JACQUES MERCIER

ドビュッシー : 劇音楽 『聖セバスティアンの殉教』

ガエル・ル・ロワ(ソプラノ)
カタリン・ヴァルコニー(メッゾ・ソプラノ)
カリーヌ・デッセー(メッゾ・ソプラノ)
ミカエル・ロンズダル(語り)
ブライトン・フェスティヴァル合唱団
ジャック・メルシエ/イル・ド・フランス国立管弦楽団

RCA RED SEAL/74321 947882




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