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エステルハーザ、輝かしき時代を彩った、ハイドンのオペラ。 [before 2005]

作曲家たち、台本作家、豊かな才能を抱える一方で、熾烈な競争を招いた1780年代のウィーンのオペラ・シーン。そういう熾烈さから距離を置いたのが、"交響曲の父"、ハイドン。オペラを作曲しなかったから、距離を置けた?いやいやいや、実際に距離があったハイドン... ウィーン古典派の巨匠の本拠地は、ハンガリーのエステルハーザ。でもって、このエステルハージ侯爵家の壮大な屋敷で、"交響曲の父"は、しっかり、オペラも作曲している。1768年、エステルハーザは劇場を完成させ、ハイドンの『薬剤師』で柿落としを迎えると、侯爵の興味は、次第に交響曲からオペラへと向かう。となれば、楽長、ハイドンの仕事はオペラ制作にシフト... 自らの作品を作曲するばかりでなく、各地で人気を博した最新のオペラを、エステルハーザでも上演可能な形(スターに当て書きされるのが当り前の当時のオペラ... スターを抱えるほどではないエステルハーザのレベルに合わせて、新たな挿入アリアを用意... )に仕立て直す作業に追われる。ある意味、これも熾烈だったよう... で、こういう実務的な仕事を重ねたことで、"交響曲の父"のオペラは、次第に独自の成長を遂げる。
そんな、ハイドンのオペラ... エステルハーザで1782年に上演された、『騎士オルランド』(deutsche harmonia mundi/82876733702)と、ハイドンのエステルハーザでの最後のオペラとなった、1784年に上演された、『アルミーダ』(TELDEC/8573-81108-2)の2作品を、ニコラウス・アーノンクールが率いたコンツェントウス・ムジクス・ウィーンの演奏で聴く。


1782年、エステルハーザの田舎臭さが醸し出すファンタジー、『騎士オルランド』。

82876733702
中世の叙事詩、『ローランの歌』から派生したルネサンスの大家、詩人、アリオストによる叙事詩『狂えるオルランド』に基づくオペラ、『騎士オルランド』。ちょうどモーツァルトの『後宮からの誘拐』がウィーンで大成功した1782年に、エステルハーザで上演されたこのオペラは、ドランマ・エロイコミコ=英雄喜劇と銘打たれ、英雄劇=オペラ・セリアと、喜劇=オペラ・ブッファの融合を狙った、エステルハーザの楽長の野心作。なのだけれど、シリアスなのか、コミカルなのか、迷走気味?というより、迷走こそ『狂えるオルランド』そのものか... それでいて、バロックの巨匠たち、リュリやヘンデル、ヴィヴァルディにラモーらが作曲したロラン=オルランドの物語というのが、古典主義の時代には、ちょっと古臭い?魔女が登場して、派手に魔法が繰り出されるあたりは、こどもっぽくもある?って、そのあたりは人形劇好きの侯爵の趣味だったか?そういうあたり、いろいろ考慮して、思うのは、垢抜けない?てか、ズバリ、田舎臭い!いや、これがエステルハーザのリアルな雰囲気だったのだろう。しかし、このエステルハーザの雰囲気には、パリや、ナポリ、ウィーンの都会的なセンスとは一味違う味わいがあって、ツボ。
例えば、1幕、魔女、アルチーナのアリア「私の眼差しだけで」(disc.1, track.11)... チャーミングなんだけれど、あざといくらいに芝居掛かっていて... それくらいだから、次々に表情を変えて、おもしろいくらいに惹き込まれてしまう。そんなあたりは、魔女の魔法?いや、魔法はハイドンが生んでいるのだよね... 何気に巧妙なハイドンの音楽。ウィーン古典派の巨匠の真面目さが、手堅い音楽を紡ぎ出しながらも、「校長先生」、「熊」、「うかつ者」と、ウィットに富む交響曲をいろいろ書いた"交響曲の父"が、オペラでも見せる表情の豊かさ... 気取りと、気の置け無さが綾なして、素朴な田舎芝居に接するような感覚を与えてくれる。一方で、2幕、ロドモンテのアリア「火花を点火された線の稲妻のごとく」(disc.2, track.2)の激しさには、バロックを思わせるところがあり、パスクワーレのカヴァティーナ「勝利、勝利!」(disc.2, track.6)などは、ヴィヴァルディとヘンデルがリヴァイヴァルしたかのよう。いや、全体からぼんやりと漂う埃臭さのようなものが、このオペラにファンタジーを醸し出す。何だろう、『ナルニア国物語』の古い衣装箪笥の中を覗くようなワクワク感... これは、なかなか魅惑的。
そんな『騎士オルランド』の独特なファンタジーを、活き活きと繰り出すアーノンクール。けして格好を付けることはせずに、時に泥臭いくらいに、ありのままを息衝かせて、エステルハーザのリアルを響かせるのか... そんなハイドン像は驚くほどヴィヴィットで、惹き込まれてしまう。というアーノンクールに応える実力派揃いの歌手たち!人形劇を見るようなキャラの立った歌を聴かせ、そこにチープな表情も覗かせ、あえてB級感を以ってドラマを紡ぎ出す。古典主義の時代にあって、古典美とは一味違うハイドンのオペラを強調する。とはいえ、B級に落ちないのは、冴え渡るコンツェントゥス・ムジクス・ウィーンの演奏があってこそ!"交響曲の父"によるサウンドの手堅さを鮮烈に鳴らし切り、圧倒されるばかり。

HAYDN: Orlando Paladino
PETIBON ・ GERHAHER ・ SCHADE ・ VON MANGNUS
CONCENTUS MUSICUS WIEN ・ HARNONCOURT

ハイドン : オペラ 『騎士オルランド』 XXVIII:11

アンジェリカ : パトリシア・プティボン(ソプラノ)
ロドモンテ : クリスティアン・ゲルハーヘル(バリトン)
オルランド : ミヒャエル・シャーデ(テノール)
メドーロ : ヴェルナー・ギューラ(テノール)
リコーネ : ヨハネス・カルパース(テノール)
エウリッラ : マリン・ハルテリウス(ソプラノ)
パスクワーレ : マルクス・シェーファー(テノール)
アルチーナ : エリーザベト・フォン・マグヌス(メッゾ・ソプラノ)
カロンテ : フローリアン・ベッシュ(バス)

ニコラウス・アーノンクール/コンツェントゥス・ムジクス・ウィーン

deutsche harmonia mundi/82876733702




1784年、モードから距離のあるエステルハーザが生んだ集大成、『アルミーダ』。

8573811082
『騎士オルランド』から2年後、1784年、エステルハーザで上演された『アルミーダ』。こちらは、ルネサンスの伝説、詩人、タッソによる叙事詩『解放されたイェルサレム』に基づくオペラなのだけれど、やはり題材としては古典的... リュリのトラジェディ・リリク(1686)や、そのトラジェディ・リリクの伝統を継承したグルックによる『アルミード』(1777)がすばらしいわけだけれど、ハイドンは、明らかにグルックの影響を受けている!というのが、オペラ改革を強く意識させるレチタティーヴォ・アッコンパニャート(オーケストラ伴奏を伴う、よりドラマティックなレチタティーヴォ... )の多用。それは、もはや、アッコンパニャート祭り!全体の構造としては、レチタティーヴォでアリアや重唱をつないで、ナンバー・オペラに留まってはいるのだけれど、アッコンパニャートが全体を有機的に結び、ナンバー・オペラの細胞壁は融解し出している。このあたり、パリ時代のグルックのトラジェディ・リリクを思わせる。何より、パリ時代のグルックの疾風怒濤を引き継ぐように、ドラマティックな音楽が繰り出されるのが印象的。が、翌年、ウィーンではイタリア・オペラが復活し、オペラ・ブッファが盛り上がることを考えると、やっぱり一歩遅れているエステルハーザ... とはいえ、一歩遅れた分、しっかり熟成されて、圧巻の集大成が響き出す!
イスラムの女王(アルミーダ)と十字軍騎士(リナルド)、敵同士が恋に落ちるというアンビヴァレントな物語は、当然、大荒れな展開となり、その大荒れを音楽にすれば、極めてドラマティックなものになる。そのあたりを、思いの外、独自の表現を貫いて、まったくおもしろい音楽を響かせるハイドン。まず、序曲にあたるシンフェニアの、半端無い交響曲感!さすがは"交響曲の父"... そして、パリ時代のグルックを思わせる濃密な音楽を聴かせる、1幕の幕切れ、アルミーダとリナルドの長大な二重唱(disc.1, track.15)!その前のレチタティーヴォ・アッコンパニャートから、見事にひとつのシーンを織り成して、単なる二重唱とは異なり、刻々と表情を変えて、19世紀のオペラを予感させる。一方で、輝かしき18世紀のオペラ・セリアの堂々たる風格を見せるアリアにも彩られ、ドラマティックにして格調にも包まれる『アルミーダ』。ウィーンのオペラ改革と、フランスのトラジェディ・リリクと、ナポリ楽派のオペラ・セリアの華麗さを、ハイドン流のやり方で結び付け、独自の境地を切り拓く... そして、これが、ハイドンのエステルハーザでの最後のオペラとなる。だからだろうか、力の籠め様が凄い。圧倒される。
という『アルミーダ』を、『騎士オルランド』と同じアーノンクールで聴くのだけれど... アーノンクールも熱い!熱いけれど、けして勢いに流されることは無く、隙が無い。だから、密度を以って白熱して来るハイドンの音楽にグイグイ惹き込まれてしまう。いや、こんなハイドン、聴いたことが無い... いつもの"交響曲の父"とは違う姿を存分に引き出して、見事。そして、タイトルロール、アルミーダを歌うバルトリが圧巻!超絶技巧もさることながら、何と言っても、その激しさ... 激しくありながら、徹底して美しいという驚くべきパフォーマンス... そんなバルトリを囲む実力派の歌手たちも見事で、息を呑むやり取りの連続。その背景で、コンツェントゥス・ムジクス・ウィーンも、力強く、輝かしい演奏を繰り広げて、盛り上げる!

HAYDN ARMIDA
CONCENTUS MUSICUS WIEN ・ HARNONCOURT

ハイドン : オペラ 『アルミーダ』 XXVIII:12

アルミーダ : チェチーリア・バルトリ(メッゾ・ソプラノ)
リナルド : クリストフ・プレガルディエン(テノール)
ゼルミーラ : パトリシア・プティボン(ソプラノ)
イドレーノ : マルクス・シェーファー(テノール)
ウバルド : スコット・ワイアー(テノール)
クロタルコ : オリヴァー・ヴィドマー(バリトン)

ニコラウス・アーノンクール/コンツェントゥス・ムジクス・ウィーン

TELDEC/8573-81108-2




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