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モーツァルト、輝かしき1780年代の結晶、『フィガロの結婚』。 [before 2005]

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1781年、ザルツブルク大司教と喧嘩するという荒技で、見事、フリーとなったモーツァルト。ウィーンに拠点を移し、1782年には『後宮からの誘拐』が大成功!モーツァルトの輝かしき1780年代が幕を開ける。ということで、『後宮からの誘拐』を聴いて、このオペラが初演された年に作曲が始まった、6つの弦楽四重奏曲、ハイドン・セットを聴いて、ハイドン・セットが完成した年、1785年に作曲が始まる『フィガロの結婚』を聴いてみようと思うのだけれど... こうして、改めてモーツァルトの歩みを辿ってみると、鮮やかにその成長が浮かび上がり、興味深い。悪戦苦闘の1770年代が成長期ならば、輝かしき1780年代は成熟期。かと思いきや、成長のスピードをまったく緩めないモーツァルト!天才は、ウィーンに出てもなお貪欲に吸収し、さらなる進化を遂げる。
ということで、ルネ・ヤーコプス指揮、コンチェルト・ケルンの演奏、ヴェロニク・ジャンス(ソプラノ)、パトリツィア・チョーフィ(ソプラノ)、アンジェリカ・キルヒシュラーガー(メッゾ・ソプラノ)、ロレンツォ・ラガッツォ(バス)、サイモン・キーンリーサイド(バリトン)という、手堅く豪華な歌手陣で、モーツァルトのオペラ『フィガロの結婚』(harmonia mundi FRANCE/HMC 901818)を聴く。

『後宮からの誘拐』を聴いてから、『フィガロの結婚』を聴くと、もう唸ってしまう。その間、4年、モーツァルトはウィーンで極めて充実した日々を過ごしていたのだろう。まるで交響曲のようだった『後宮からの誘拐』は、見事過ぎるほど見事な音楽を構築していたが、若いがゆえの盛り込み過ぎが目立っていた... そういう音楽を思い起こしながら『フィガロの結婚』に改めて触れると、その洗練に目を見張る!見事に引き算を覚えたモーツァルト... 引いてはいるけれど、音楽としての厚みは失わず、独特の境地を切り拓いている。同時代のオペラ・ブッファを見渡せば、よりシンプルに、軽快さを際立たせ、ロッシーニを予感させるキャッチーさが前面に押し出されるわけだけれど、『フィガロの結婚』は、そういう風潮とは一線を画すところがある。で、『後宮からの誘拐』とはまた違ったベクトルで音楽を作り込み、ドラマを丁寧に紡ぎ出す。そこには、グルックのオペラ改革の精神がしっかりと活きている。ナポリ楽派が敷いた当世風であるより、ウィーンの伝統へのリスペクトを大切にするのが『フィガロの結婚』か... だからこそ、音楽に隙が生まれない。いや、序曲が始まって、全てナンバーが活き活きと繰り出されて、グイグイと惹き込まれてしまう。ナンバー・オペラの枠組みから脱することはないのだけれど、レチタティーヴォとアリアの交替という従来のオペラをあまり意識させることなく、巧みに重唱によってドラマを動かし、一幕一幕の一体感がただならない。今、改めて、そんな音楽を丁寧に追ってみれば、いろいろ発見があり、魅了されるばかり。
という『フィガロの結婚』なのだけれど、1786年のブルク劇場の初演は大成功というものではなかったよう... 当世風ではなく、凝った作りの音楽に、初演に接した聴衆は戸惑ったのか、評価は分かれる。が、上演を重ねるごとに、その音楽のすばらしさは理解され、多くのナンバーがアンコールを求められるようになる。しまいには、ヨーゼフ帝がアンコールに制限を掛けるほどの反響を呼ぶのだったが、当世風でないあたりが、劇場首脳陣の癇に障ったか?9回の上演で打ち切られ、マルティン・イ・ソレールの『ウナ・コザ・ララ』に差し替えられる。18世紀のウィーンのオペラ・シーンには、イタリアvsフランス、伝統的オペラvs改革オペラ、イタリア語からドイツ語へ、というように、常に対立軸があったわけだけれど、1783年にイタリア・オペラが復活してからは、みな同じオペラ・ブッファで勝負しなくてはいけない状況があり、対立軸が作り難い分、ライヴァルたちの争いはより熾烈になったと言えるのかもしれない。日に日に反響を呼んだ『フィガロの結婚』の打ち切りも、ライヴァルたちの妨害や横槍があったようだ。それは、モーツァルトが狙い撃ちされたのではなく、マルティン・イ・ソレールの『ウナ・コザ・ララ』も妨害に見舞われていて、才能犇めくウィーンなればこそのリスクだったのだろう。そんな『フィガロの結婚』は、1786年の年末、プラハで上演され、文句無しの大成功となる。この成功が、1789年のウィーンでの再演につながり、今度は完全なる大成功!ヨーゼフ帝もお気に召し、年を跨いで29回も上演されたとのこと...
という『フィガロの結婚』を、ヤーコプスの指揮、コンチェルト・ケルンの演奏で聴くのだけれど、いやー、凄い!久々に聴くと、その凄さが身に沁みる... で、何が凄いかというと、ヤーコプスの歌心の妙が生み出す、得も言えぬナチュラルな流れ... 『後宮からの誘拐』に比べれば、見事に洗練されたとはいえ、『フィガロの結婚』も、結構、シンフォニックで、当世風のオペラ・ブッファに比べると、かなりゴツい印象もあるのだけれど、そのあたりを、引いたり、抑えたり、時折、擽ったりしながら、モーツァルトの確かな音楽を、リアルな人間の呼吸に昇華してゆくヤーコプスの魔法!舌を巻くばかり... で、その魔法を見事に響かせるコンチェルト・ケルンの演奏の縦横無尽さ!交響曲のようにガッツリ鳴らしたかと思えば、軽やかに情景を紡ぎ出し、その表情の豊かさに魅了される。とはいえ、やっぱり歌手たちの演技が光る!手堅く豪華な歌手陣は、下手に個性を押し出すようなことはせず、絶妙にスター性を薄め、伯爵邸で繰り広げられるドラマに、リアリティをもたらし、思いの外、スタイリッシュ!また、上質にして、どこか均質でもある主要キャストの歌声が、このオペラの醍醐味であるアンサンブルをこれ以上無く輝かせ、圧倒的。一方で、劇中歌であるケルビーノのアリエッタ(disc.2, track.4)は"歌"としてデフォルメされ、ドン・クルツィオの吃音などギミックなところも... こういうスパイスも効かせて、オペラ・ブッファとしてのおかしみもさり気なく盛り込んでいて... となると、全3枚組が、あっと言う間!

MOZART
Le Nozze di Figaro
RENÉ JACOBS


モーツァルト : オペラ 『フィガロの結婚』 K.492

アルマヴィーヴァ伯爵 : サイモン・キーンリーサイド(バリントン)
伯爵夫人 : ヴェロニク・ジャンス(ソプラノ)
スザンナ : パトリツィア・チョーフィ(ソプラノ)
フィガロ : ロレンツォ・レガッツォ(バス)
ケルビーノ : アンジェリカ・キルヒシュラーガー(メッゾ・ソプラノ)
マルチェッリーナ : マリー・マクローリン(ソプラノ)
バジーリオ/クルツィオ : コビー・ヴァン・レンズブルク(テノール)
バルトロ/アントーニオ : アントーニオ・アベーテ(バス)
バルバリーナ : ヌリア・リアル(ソプラノ)
コレギウム・ヴォカーレ・ヘント(コーラス)

ルネ・ヤーコプス/コンチェルト・ケルン
ニコラウ・デ・フィゲイレド(フォルテピアノ)

harmonia mundi/HMU 807553

モーツァルト、悪戦苦闘の1770年代から、輝かしき1780年代へ...
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