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ウィーン仕込みのイタリア・オペラ、サリエリという希有な存在。 [before 2005]

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1770年代のモーツァルトを巡って来たので、1780年代へ!という前に、ちょっと寄り道... モーツァルトのライヴァル、サリエリを聴いてみようかなと... で、そのサリエリ(1750-1825)、映画『アマデウス』の影響か、モーツァルト(1756-91)よりずっと年上のイメージがあったのだけれど、改めて生年を突き合わせて見れば、6つしか違わない。となると、同世代であって、歩んだ道程も似たものがある。モーツァルトがミラノで初めてのオペラ・セリア、『ポントの王、ミトリダーテ』を大成功させた1770年、ウィーンではサリエリが初めてのオペラ、『女文士たち』を初演、成功させている。その後、モーツァルトはミュンヒェン、ミラノと、順調にオペラ作家としてキャリアを築くかに見えたものの、モーツァルト一家が仕えるザルツブルクの大司教の交代があり、ザルツブルク外での活動が思うようにならなくなる。一方、サリエリは、ウィーンで若手作曲家の地位を築くも、1776年、ヨーゼフ帝の劇場改革により、ドイツ語によるオペラ、ジングシュピールの推奨によって、得意のイタリア・オペラを封じられるという事態に... 1770年代、若手作曲家として、難しい状況の中、突き進んだモーツァルト同様、サリエリもまた、紆余曲折あって、それを糧に、1780年代、オペラで大きな花を咲かせることになる。で、それは、モーツァルトよりも大きい?
ということで、オペラ作家、サリエリを俯瞰する。アダム・フィッシャーの指揮、エイジ・オブ・インライトゥンメント管弦楽団の演奏、チェチーリア・バルトリ(メッゾ・ソプラノ)が歌う、サリエリのアリア集、"The Salieri Album"(DECCA/475 100-2)を聴く。

サリエリはイタリア人。当然、イタリア・オペラが得意。なのだけれど、そのキャリアは、なかなか興味深いものがある。1750年、北イタリア、レニャーゴ(当時はヴェネツィア共和国領... )の商家に生まれたサリエリ。その最初の音楽の先生は、タルティーニに師事したというオルガニスト、9つ年上の兄、フランチェスコ・アントニオ。その後、マルティーニ神父の弟子、レニャーゴ大聖堂のオルガニスト、シモーニに師事するも、1765年、14歳の時に父を亡くし、孤児となってしまう。が、翌、1766年、ヴェネツィアの有力貴族、モチェニーゴ家(かつて父と取引があり親交があった... そして、ヴェネツィアの音楽シーンに欠かせないパトロン!)の支援により、ヴェネツィアに移り、音楽を続けられることに... 幸運はさらに続き、間もなく、ヴェネツィアを訪れていたウィーンの宮廷作曲家、ガスマンに見出され、その助手としてウィーンに旅立つ、サリエリ、15歳... 1760年代のウィーンのオペラは、ナポリやヴェネツィアといった、本場、イタリアとは一味違い、ハプスブルク家の権威に裏打ちされて、独特の高みにあった。18世紀、最も影響力を持った台本作家、イタリアからやって来たメタスタージオがその中心にいて、それに対抗するような形で、フランスからインスピレーションを得てオペラ改革に挑んだグルックがいて... そうした中に身を置いたサリエリは、伝統と革新をしっかり吸収し、師、ガスマンの下、メタスタージオからも、グルックからもかわいがられ、ウィーンでその才能を開花させる。つまり、サリエリのイタリア・オペラは、ウィーン仕込み!
というサリエリは、1770年、早くも20歳にして初めてのオペラ、『女文士たち』を作曲し、ウィーンのブルク劇場でデビュー。翌、1771年には、『アルミーダ』が大成功!一躍、若手作曲家として注目の存在となり、順調にキャリアを築いて行くのだったが、1776年、ヨーゼフ帝による劇場改革が、そのキャリアを狂わせる。ウィーンのオペラは、イタリアからやって来るスター歌手への出費の問題、あるいはヨーゼフ帝のナショナリスティックな志向(母、マリア・テレジアがイタリア・オペラ派であった反発... )があって、イタリア・オペラからドイツ語によるオペラ、ジングシュピールに切り替えられ、サリエリはウィーンでの活躍を奪われてしまう。が、イタリアにその活路を見出すサリエリ... 1778年、スカラ座の柿落としを飾った『見出されたエウローパ』が大成功!本場ではまだ無名だったサリエリだったが、これを切っ掛けにヴェネツィア、ローマと活躍の場を広げ、ウィーン仕込みのイタリア・オペラが、イタリアに逆輸入されるというおもしろい事態が生まれる。さらには、1784年に、パリ、オペラ座で、『ダナオスの娘たち』を初演、大成功!国際的な作曲家として、モーツァルト以上に広く知られることになる。その前年、1783年には、ヨーゼフ帝が再び音楽政策を転換。ウィーンでイタリア・オペラが復活すると、サリエリは再びウィーンで活躍。1780年代後半は、モーツァルトと切磋琢磨し、ウィーンのオペラが大きく花開くことになる。
で、サリエリのアリアを聴くのだけれど... バルトリが最初に取り上げるのは、『アルミーダ』でブレイクした翌年、1772年に初演された『奪われた手桶』からのアリア「わたしはずたずたの帆掛け舟のよう」。いやー、バルトリのポテンシャルの高さを存分に発揮するナンバーは、ヴィヴァルディを思わせる激しさと超絶技巧に彩られて、圧巻!1770年代、グルックの疾風怒濤に煽られて、若きサリエリも弾けていたか... そこから、劇場改革後、1772年、ヴェネツィアで上演された『焼きもち焼きの学校』からのレチタティーヴォとアリア「あの方はエルネスティーナと一緒... ああ、もう、見なしてくれますよう」(track.2)は、じっくりと歌い上げ、モーツァルトにまったく引けを取らない表情を紡ぎ出し、充実したドラマティックさに聴き入るばかり。そんなサリエリのアリアを聴き進めて感じるのは、自在に歌を操る器用さ、感情を巧みに音楽に乗せるセンスの冴え... そこには、グルックのオペラ改革がしっかりと活きているように感じる。一方で、イタリアで修行して得たのだろうメロディアスさが、時代を下れば下るほど感じられ、ロッシーニを早くも予感させる。その自在さとメロディアスなあたりを味わってしまうと、モーツァルトのアリアがかっちりとしたものに感じられ、古風にも感じられる?天真爛漫なモーツァルトも、ことその音楽に関しては、極めて真面目だったと言えるのかもしれない。となると、サリエリは不真面目?いやいやいや、グルックのDNAを引き継ぎ、型通りを脱した新しい時代がそこに響くのかもしれない。それが、とても魅力的!
そのあたりを見事に引き出す、バルトリ。さすが... コロラトゥーラは鮮やかに決まり、何より情感豊かな歌いに魅了され、ただただ惹き込まれる。いや、今、改めて聴き直して見ると、バルトリの説得力の凄さに唸らされる。モーツァルトに比べれば、圧倒的に聴き慣れていないサリエリだけれど、その魅力を徹底して歌い上げるバルトリ... バルトリのただならぬテクニックがあって繰り出される縦横無尽さが、サリエリのドラマを重視した繊細かつ大胆な音楽を活き活きと捉えて、鮮やか!また、アダム・フィッシャーが指揮するエイジ・オブ・インライトゥンメント管の演奏もすばらしく... バルトリの縦横無尽の表情に、豊かな背景を描き出し、ひとつひとつのナンバーに、思いの外、奥行きが生まれ、アリア集でありながらも、よりドラマティックな聴き応えがある。そんなすばらしい演奏に触れると、序曲なんかも聴いてみたかったかなと...

Cecilia Bartoli: The Salieri Album

サリエリ : オペラ 『奪われた手桶』 から 「わたしはずたずたの帆掛け舟のよう」
サリエリ : オペラ 『焼きもち焼きの学校』 から 「あの方はエルネスティーナと一緒... ああ、もう、見なしてくれますよう」
サリエリ : オペラ 『ヴェネツィアの市』 から 「あなたにとってわたしは妻で恋人」
サリエリ : オペラ 『ペルシアの王女、パルミーラ』 から 「希望をと言ってくださるけれど無駄でしてよ... 哀れにも見捨てられ」
サリエリ : オペラ 『花文字』 から 「それであなた様は良き夫として... わたしは嫌でしてよ、そうそこで演奏されるのは」
サリエリ : オペラ 『花文字』 から 「やっとわたしは独りになったわ... ただ独り、そして寂しく」
サリエリ : オペラ 『一日成金』 から 「昼食をとって眠ったら」
サリエリ : オペラ 『奪われた手桶』 から 「いいえ、揺らぐことにはなりません... 私の頭上に」
サリエリ : オペラ 『ペルシアの王女、パルミーラ』 から 「私のそばから遠くへ行っておしまい... 不幸な魂に」
サリエリ : オペラ 『いつわりの愚か娘』 から 「もし心を売らねばならないとしたら」
サリエリ : オペラ 『一日成金』 から 「さあこれで、前にもまして... 愛神よ、お慈悲深い愛神よ」
サリエリ : オペラ 『トロフォーニオの洞窟』 から 「ラララ」
サリエリ : オペラ 『アルミーダ』 から
   「では僕は彼女についてゆけぬのか... あなたと離れては... もしや、あるいは... 僕のところへ来てくれ、黄金の翼に乗って」

チェチーリア・バルトリ(メッゾ・ソプラノ)
アダム・フィッシャー/エイジ・オブ・インライトゥンメント管弦楽団

DECCA/475 100-2




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