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"いんげんまめ"、イル・ファーゾロの真実... [before 2005]

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16世紀後半のフィレンツェについて、カヴァリエーリについて追った、前回。追えば追うほど、あまりにいろいろなことが連動していて、何が何だかわからなくなってしまう(未だに頭の中、まとまっていないのだよね... )。いやー、ルネサンスの最後は、音楽のみならずポリフォニック!王侯と、宮廷人と、芸術家たちに、国際政治と、楽壇と、革新とが、まるで歯車のように噛み合って回り出す。で、音楽という歯車ひとつを見つめていても、当然、全体像は捉えることはできず、なぜ、それが回っているかはわからない... そこに、読み説くおもしろさがある。単に音楽を聴くだけでない、暗号を解読するようなおもしろさ... こういうあたり、クラシックの醍醐味な気がする。ということで、17世紀、初期バロックの時代に戻り、本当に暗号を解読するような音楽を見つめる。
17世紀、イタリア語で"いんげんまめ"、ファーゾロと名乗った謎多き作曲家を巡るアルバム... ヴァンサン・デュメストル率いる、ル・ポエム・アルモニークの歌と演奏で、"Il FASOLO?"(Alpha/Alpha 023)。謎とは裏腹に、あっけらかんと楽しい音楽を聴く。

"いんげんまめ"、ファーゾロとは何者か?1886年、音楽学者、キゾレッティが、ファーゾロ名義の魅力的な作品を集め、作品集を出版したことで、再発見されたその存在。おそらく、17世紀、ベルガモで生まれたギタリストで、作曲家だろう... というおぼろげなイメージが、キゾレッティによって与えられるも、後に、ジョヴァンニ・バティスタ・ファーゾロ・ダスティなる人物が見出される。アスティ(ワインで知られる北イタリアの都市... )のファーゾロと呼ばれるその人物は、1645年にヴェネツィアで、1659年にパレルモで宗教作品を出版していて、"いんげんまめ"、ファーゾロと比定された。かと思いきや、1970年、音楽学者、フェラーリ・バラッシにより、ヴェネツィアでの最初のオペラの作曲者となったマネッリが、"いんげんまめ"、ファーゾロの正体ではないかという説が唱えられる。"いんげんまめ"、ファーゾロ名義でローマにて出版された作品が、マネッリの名でベルリンにおいて出版(かつて、ローマで出版したことを言及... )されていることを発見したフェラーリ・バラッシ。"いんげんまめ"、ファーゾロの表情豊かな歌の数々は、マネッリが扉を開くことになるヴェネツィアのオペラ(宮廷を離れ、市民のオペラとして一大ブームを巻き起こす!)と重なり、腑に落ちるものがある。また、当時のヴェネツィアでは、匿名で作品を発表することがクールだったみたいで、"いんげんまめ"なんていう珍妙な名前も、もっともらしく感じられた。
ということで、デュメストル+ル・ポエム・アルモニークは、マネッリ=ファーゾロとして、ともにヴェネツィアのオペラで活躍したフェラーリの作品も取り上げ、"Il FASOLO?"を編むのだったが... どうやら、最新の研究では、アスティのファーゾロが"いんげんまめ"の正体に特定されたみたいで... おそらく、1600年頃にアスティで生まれたジョヴァンニ・バティスタ・ファーゾロは、フランチェスコ会の修道士で、ヴェネツィアでオルガニストの仕事をした後、1659年、シチリア島、パレルモの近郊、モンレアーレ大聖堂(ノルマン時代に建立された中世のシチリア王国の姿を留める世界遺産!)の楽長に就任、1664年にパレルモで亡くなっている。"Il FASOLO?"に収録されている作品は、イタリア各地の方言で歌われ、イタリア各地の音楽のスタイルが用いられているのだけれど、それは、北イタリアで生まれ、ヴェネツィアでオルガニストをし、南のシチリアで人生を終えたブラザー・ファーゾロをそのまま物語っているかのよう... いや、実に多彩で、表情豊かな歌が次々に繰り出され、イタリア半島を北に南と旅するような楽しい感覚で聴く者を包んでくれる、"Il FASOLO?"。全てのナンバーが、思いの外、ヴィヴィットで、キャッチーで、クラシックであることを忘れさせるような砕けた気分に充ち、惹き込まれずにいられない。
始まりのベルガマスカ「相乗り小舟」、通奏低音が奏でる人懐っこい音形がフォークロワっぽさを漂わせるかと思うと、テオルボがロックのベースのような表情を見せ、おおっ?!となると、軽やかにテノールが歌い出す。初期バロックならではの、シンプルで、即興性を感じさせる息衝く音楽は、普段のクラシックでは味わえない魅力を放つ。続く、「ルチア夫人の嘆きとコーラの返答」(track.2)では、ソプラノが歌うラメントのメロディーに、イタリアならではの歌謡性をたっぷりと味わいつつ、その嘆きに返答する男声の表情豊かな歌いっぷりがアクセントとなり、おもしろいコントラストを描き出す。"Il FASOLO?"には、脱力系の笑いも籠められている。時として、悪ノリも見せつつ、巧みにコミカルで、言葉がわからずとも、すっかり楽しめてしまう。セレナータ『美食令嬢が謝肉祭閣下に差し上げた歌』(track.8-16)なんて、タイトルからして、シュール... その6曲目、3人の足を傷めた男たちのバッロ(track.13)なんてもう、足を傷めているのにバッロ?その踊りを表現する歌の、歌にならないような3声のポリフォニーが、笑える。けど、絶妙にポップな仕上がりで、センスを感じてしまう。
という"Il FASOLO?"を、活き活きと聴かせるデュメストル+ル・ポエム・アルモニーク。クラシックの堅苦しさを落し切ってから、ありのままを響かせて生まれる魔法!ファーゾロの珍妙な世界... 時としてB級感満載の音楽を、瑞々しく解き放つような彼らの姿勢と、揺ぎ無く、かつ器用な歌い、確かな技術から繰り出される洗練された演奏が、驚くほど鮮やかな音楽像を生み、とても4世紀前の音楽だとは思えない印象を与える。何より、楽しい!その楽しさを生み出す、ル・ポエム・アルモニークの歌手陣の芸達者ぶり... 言葉の壁を軽々と乗り越えてしまう豊かな表情には感服。そして、デュメストルのテオルボ、バロック・ギターを中心とした、魅惑的なアンサンブル!ひとつひとつの楽器が、とにかくクリアに響き、そのヴィヴィットなサウンドには息を呑む瞬間も... そういうサウンドを見事にすくい上げる録音の秀逸さも特筆すべきもの。いや、ファーゾロが何者かなんてどうでもよくなってしまうほど、魅力的な"Il FASOLO?"。最高。

Il FASOLO?
Le Poème Harmonique - Vincent Dumestre


ファーゾロ : ベルガマスカ 「相乗り小舟」
フェラーリ : ルチア夫人の嘆きとコーラの返答
フェラーリ : 愛が、富が、いかに心を打ち砕くか知らぬ者があろうか
ファーゾロ : 丸腰にされ、情熱に満たされたわたし
ファーゾロ : カンツォネッタ 「媚びへつらうまなざし」
パラヴィチーノ : マドリガーレ 「なんと苦々しいことか」
ファーゾロ : ヤカラ 「ナポリ風アリア」
ファーゾロ : ロンバルディ地方の方言によるセレナータ 『美食令嬢が謝肉祭閣下に差し上げた歌』
ファーゾロ : チャコーナ 「燃えさかる我が心」

ヴァンサン・デュメストル/ル・ポエム・アルモニーク

Alpha/Alpha 023




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