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新しい時代の歌、歌うランディ、弾くフレスコバルディ... [before 2005]

クラシックで音楽の都というと、やっぱりウィーン?音楽史からするとパリの存在はあまりに輝かしい。いや、そればかりでなく、それぞれの時代に、様々な音楽都市が勃興し、魅力を放ち... そんな音楽都市の興亡から音楽史を見つめると、また、おもしろい気がする。そうした中で、他とは一味違う展開を見せて、興味深いのが、聖都、ローマ。教皇の御膝元という性格から、宗教的な縛りが音楽活動にブレーキを掛けてしまうことも多々あるのだけれど、それを掻い潜る術を磨いた作曲家たち、それを支えるリッチな高位聖職者たちもいて、アクセルも踏まれるという矛盾がローマの音楽シーンをおもしろくする。何より、聖都、ローマなればこそ、ヨーロッパ中から人々を集める国際性が、ローマの音楽の質を高め、より洗練された響きを生み出すのか... そんなローマで活躍した初期バロックの作曲家、モンテヴェルディの次の世代にあたる2人に注目してみる。
ということで、クリスティーナ・プルハル率いる、ラルペッジャータの演奏、マルコ・ビーズリー(テノール)らの歌で、ランディの作品集、"Homo fugito velut umbra"(Alpha/Alpha 020)と、日本の古楽アンサンブル、アントネッロの演奏、鈴木美登里(ソプラノ)の歌で、フレスコバルディの作品集、"Arie, toccate e canzoni"(BIS/BIS-CD-1166)を聴く。


歌手、ランディによる歌曲。新しい時代の申し子なればこそのナチュラル...

Alpha020
ステファノ・ランディ(ca.1586-1639)。
モンテヴェルディがマントヴァの宮廷に仕える前、マドリガーレ作曲家として注目を集め始めていた頃、ローマで生まれたランディ。1595年、ローマのコレージョ・ジェルマニコ(イエズス会がドイツの宗教改革に対抗するため創設した教会学校... 音楽教育も重要な要素で、ビクトリアも学び、後にカリッシミが楽長を務めている... )に入学、ボーイ・ソプラノとして聖歌隊で歌い、音楽を学び始めると、1602年にはセミナリオ・ロマーノ(イエズス会の神学校で、かつてはパレストリーナが楽長を務めた聖歌隊があり、1606年にはローマにおけるオペラの先駆けとなる作品も上演... )に進み、学生ながら、謝肉祭のためのパストラルを作曲。卒業後は、ローマでオルガニスト、歌手としてキャリアをスタートさせ、1618年、パドヴァ司教の楽長に就任。翌、1619年には、ランディの最初のオペラとなる『オルフェオの死』をローマで上演。その後、ローマに帰り、教皇、パウルス5世(在位 : 1605-21)の一族、ボルゲーゼ家(『オルフェオの死』もボルゲーゼ家の婚礼で上演されたと考えられる... )に仕えながら、教会や信徒会でも仕事をし、やがて、教皇、ウルバヌス8世(在位 : 1623-44)の一族、バルベリーニ家とつながりを持ち、その後押しで、教皇聖歌隊の一員となる。そして、1632年、バルベリーニ劇場の柿落とし、代表作、『聖アレッシオ』を初演。ローマのオペラの輝かしい扉を開くも、まもなく健康を害し、1639年、世を去る。
というランディの歌曲を、器楽曲を挿み、センス良くまとめるプルハル+ラルペッジャータ。それは、初期バロックの時代のローマのセレヴたちの先端的な音楽の楽しみ?教会では、依然、パレストリーナ様式が生き残る中、ランディの世俗的な音楽には、心地良く、新しい時代の音楽の、そよ風が吹く。モンテヴェルディが気合を入れて向き合ったルネサンスからバロックへの革新も、ランディ世代にとっては、風に乗るように、軽やかに自らのものとしていて... またそこには、作曲家の歌手としてのセンスも活きているのかもしれない。音楽をよりナチュラルに展開する歌心... ルネサンスからバロックへの革新が、技術から感性の次元に至っているのがランディの音楽なのかなと... そうして生まれる思い掛けない新鮮さ!古雅とは一線を画す瑞々しさに、どこか刹那が滲んで、21世紀の今にも通じる感覚を見出せる気がする。いや、これは17世紀のニュー・ミュージック... 新しい時代の申し子としての自負を、さり気なく、しっかりと響かせるランディ。そのあたり、とてもクールに感じられる。
それを引き立てるプルハル+ラルペッジャータ!軽やかでありながら、息衝くものがあり、時代を生々しく捉えつつ、だからこそ、時代の若者文化のようなものを鮮やかに蘇らせる。それがまた、21世紀の今に共鳴して、時代を超越した音楽を楽しませてくれる魔法!そこに、艶やかさを加える、地声テノール、ビーズリーの希有な歌声!味わい深くも飄々とした表情が、初期バロックの時代のローマのセレヴたちの憂いのようなものを拾い集め、魅惑的。それでいて、心に沁みるのだよね...

LANDI "Homo fugito velut umbra"
L'Arpeggiata - Christina Pluhar


ランディ : その者、影のごとく去り
ランディ : ブナと松の間に小鳥がいて
ランディ : シンフォニア 〔3つのヴァイオリン、ハープ、リュート、チェンバロ、テオルボ、ヴィオローネとリラによる〕
ランディ : いまさら媚びようと
ランディ : 他の者ども、愛を避けよ
ランディ : カンツォネッタ 「水たまり」 〔リュート、テオルボ、ハープによる〕
ランディ : こんなに長く、あなたを愛してきたけれど
ランディ : おろかな愛よ、何ゆえにまた弓を引くのか
ランディ : 愛の戦へ、急げ、恋人たちよ
ランディ : 美徳のバレット
ランディ : 灼熱の太陽の下、蝉は鳴く
ランディ : 善行なぞ知ったことか
ランディ : 騎士リナルドがアルミーダを捨てた時
ランディ : ご婦人よ、この目をつたう涙は
ランディ : アマリッリ、ああ、ここに来てくれ

ヨハネット・ゾーメル(ソプラノ)
ステファン・ファン・ダイク(テノール)
アラン・ビュエ(バス)
マルコ・ビーズリー(テノール)
クリスティーナ・プルハル/ラルペッジャータ

Alpha/Alpha 020




鍵盤楽器奏者、フレスコバルディのアリア。律儀さが生むアルカイック...

BISCD1166
ジローラモ・フレスコバルディ(1583-1643)。
モンテヴェルディが16歳にして宗教的マドリガーレ集を出版した年、ランディが生まれる3年ほど前、1583年、フェッラーラで生まれたフレスコバルディ。ルネサンスの拠点として華やかな宮廷文化を育み、バロック到来目前には、最も刺激的な音楽の中心地として存在感を示したフェッラーラの宮廷。フレスコバルディは、幼くしてオルガニストとして才能を開花させ、フェッラーラの楽長、ルッツァスキに師事。瞬く間に神童として注目を集め、14歳にして、フェッラーラ楽壇を主導したアカデミア・デル・モルテのメンバーとなる。が、1597年、フェッラーラ公国は教皇領に吸収され、宮廷はモデナに移り、フェッラーラは輝きを失ってしまう。フレスコバルディは、しばらくフェッラーラに留まるも、やがてローマに出て活動。1607年には、由緒正しいサンタ・マリア・イン・トラステヴェレ教会のオルガニストに就任。支援者だったグイド・ベンティヴォーリオが教皇庁大使としてハプスブルク領ネーデルラントの首都、ブリュッセルに赴任すると、それに付き従い、当時、オルガンの先進地だったネーデルラントで大いに刺激を受けることに... 帰国すると、栄誉あるサン・ピエトロ大聖堂のオルガニストに就任(1608)。その名声は高まり、以後、当代随一の鍵盤楽器奏者として活躍。広くヨーロッパに大きな影響を与える。
というフレスコバルディの音楽を、鍵盤楽器に捉われず、幅広く取り上げるアントネッロの"Arie, toccate e canzoni"。アリア、トッカータ、カンツォーナと、まさにバロックの到来により生まれた新しい音楽を並べているのだけれど、どこか古雅な印象を受けるフレスコバルディの音楽。そうした中で、特に興味を引くのが、ソプラノが歌うアリア(track.2, 3, 6, 13, 15, 17)。そもそも、鍵盤楽器の大家のアリアというのが新鮮で... それでいて、鍵盤楽器の大家であることが、そのアリアから、そこはかとなしに感じられて... バロックが到来しても、ルネサンスがベースとして機能していた鍵盤楽器の音楽、その大家だけに、歌うことばかりが強調されるのではなく、全体が構築的に織り成され、それにより、歌われる旋律が確固として響き出すという律儀さ。そうしたあたり、同世代のランディの歌曲に比べると、古風に感じられるものの、その古風なあたりが、とても端正に響き、全ての音が澄んだ輝きを見せ、惹き込まれる。いや、このアルカイックさ、幻想的ですらある。
そのアルカイックさを、瑞々しく引き出したアントネッロ!冴え渡る濱田のコルネット、落ち着いた佇まいを聴かせる石川のヴィオラ・ダ・ガンバ、繊細にしてキラキラときらめくような西山のチェンバロ、香るようなサウンドを放つボナヴィータのテオルボ... それらが、精密に織り成されて生まれる繊細さは、フレスコバルディの律儀さを美しく昇華し、見事。そこに、楚々と乗って来る鈴木のソプラノ!やわらかな歌声を聴かせてくれるのだけれど、どこか冷たい上品さを湛え、全体を引き立てる。

Frescobaldi: Arie, toccate e canzoni ― Anthonello

フレスコバルディ : スピネットとヴァイオリンのためのトッカータ
フレスコバルディ : アリア 「そよ風吹けば」
フレスコバルディ : ロマネスカのアリア 「されど私のせねばならぬは」
フレスコバルディ : カンツォーナ 「ベルナルディーナ」
フレスコバルディ : 3声のトッカータ
フレスコバルディ : パッサカリアのアリア 「かくも私を蔑むか」
フレスコバルディ : カンツォン 第2番
フレスコバルディ : 宗教的ソネット 「十字架の下のマグダラのマリア」
フレスコバルディ : カンツォーナ 「ニコリーナ」
フレスコバルディ : 主よ、顧みてください」
フレスコバルディ : トッカータ 第9番
フレスコバルディ : カンツォーナ 「ラ・ボヌイジア」
フレスコバルディ : アリア 「ああ、この目からあふれる涙が」
フレスコバルディ : カンツォーナ 「トロンボンチーナ」
フレスコバルディ : アリア 「私の青ざめた顔」
フレスコバルディ : カンツォーナ 「ルッケジーナ」
フレスコバルディ : コッレンテ 第4番/アリア 「ついにわが嘆き」

アントネッロ
濱田芳通(コルネット/リコーダー)
鈴木美登里(ソプラノ)
石川かおり(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
西山まりえ(チェンバロ/ハープ)
ラファエル・ボナヴィータ(テオルボ/バロック・ギター)

BIS/BIS-CD-1166




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