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弦楽四重奏というプリズムが響かせる、北欧の内なる声。 [2006]

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今年、フィンランドは、独立100周年を迎える。ヨーロッパというと、歴史が古いイメージがあるのだけれど、国家としては、意外と新しいところが多い。そして、北欧では、ノルウェーもまた新しい(中世末までは独立国だったので、「新しい」とは、ちょっと違うか?)。フィンランドがロシアから独立(1917)する12年前、1905年、ノルウェーはスウェーデンから分離している。となると、北欧のお馴染みの作曲家たち、ノルウェーのグリーグ(1843-1907)、デンマークのニールセン(1865-1931)、フィンランドのシベリウス(1865-1957)が生まれた頃の北欧の地図は、今とまったく異なるわけだ(ま、北欧に限らずなのだけれど... )。100年遡るだけで、今とは違う世界が広がるという事実を前にすると、アメリカの新大統領も、ハード・ブレグジットも、壮大なる変奏曲である歴史の一端に過ぎないことを思い知らされる。いや、そういう、大きなスパンで世界を見つめることが、今、とても必要な気がする。物事は変わることを前提に見据えなくてはいけない。ふと、そんなことを思う、今日この頃...
さて、北欧です。シベリウスの交響曲に続き、北欧のお馴染みの作曲家たちにも目を向けまして、エマーソン弦楽四重奏団による、グリーグの弦楽四重奏曲、ニールセンの「若い芸術家の棺の傍らで」、シベリウスの弦楽四重奏曲、「内なる声」という、北欧の弦楽四重奏のための作品を集めた"INTIMATE VOICES"(Deutsche Grammophon/477 5960)を聴く。

北欧の音楽には、「北欧」というイメージが強くある。けれど、シベリウスの交響曲、全7曲を改めて聴いて感じるのは、「北欧」のイメージばかりでない、ヨーロッパの音楽としての同時代性、あるいは、ヨーロッパの音楽としての手堅さ... いや、シベリウスの交響曲には、骨太のヨーロッパが、どっしりと存在している。19世紀末から20世紀前半に掛けて、ヨーロッパのメインストリームが雪崩を打って近代音楽へと移行する中、伝統の上にブレない音楽を響かせたシベリウス。それは完全なるオールド・ファッションだったかもしれないが、凛と響かせれば、時代を超越してしまう魔法。また、そのオールド・ファッション、ブレない姿勢に、「北欧」をも見出せる。北欧という場所はヨーロッパのメインストリームに対して周縁であるがために、より純粋な形でヨーロッパが反映されるところがある。だからオールド・ファッションにもより洗練された表情を見出し、ブレない姿勢には北欧の厳しい自然が生む峻厳さが重なり、ただならず惹き込まれる。そして、エマーソン弦楽四重奏団による"INTIMATE VOICES"を聴くのだけれど... ウーン、交響曲以上にヨーロッパが濃密に展開されるのかもしれない。弦楽四重奏という、ヨーロッパ音楽における結晶のような編成だからこそ、余計にその濃密さは際立つのかもしれない。
それを強く印象付ける、1曲目、グリーグの弦楽四重奏曲(track.1-4)。いや、もう、のっけからため息が出てしまうほどロマンティック!それは、グリーグが35歳になる頃、1878年に完成し、同年、ケルンで初演された作品。ということで、ロマン主義、真っ最中の音楽であって、シベリウスの交響曲のようなオールド・ファッションではないのだけれど、シベリウスの交響曲に通じる、「北欧」ならではの純度の高さを強く感じさせる音楽。早くから才能を認められ、15歳でライプツィヒ音楽院に留学(1858-61)したグリーグだけに、その音楽は、ドイツ・ロマン主義の優等生とも言えるもの... 弦楽四重奏曲の1楽章(track.1)も、ブラームスの若い頃の室内楽を思わせてドラマティック、聴く者を揺さぶるような展開に圧倒される。牧歌的な2楽章(track.2)を挿み、3楽章(track.3)では民俗舞踊を思わせるリズムがアクセントとなり、国民楽派としてのグリーグも聴こえて魅力を添える。そして、終楽章(track.4)!印象的な不協和音が流れた後、鮮烈なトゥッティを合図にサルタレッロの疾走... テンション高く、軽快で、激しく、時にデモーニッシュに音楽が展開されるスリリングさは、クール!ロマンティックなのだけれど、現代的なセンスも感じさせるグリーグの弦楽四重奏曲。このスタイリッシュさも、「北欧」らしさかなと...
という、グリーグの後で、ニールセンの「若い芸術家の棺の傍らで」(track.5)が取り上げられるのだけれど、これは、1910年、ニールセンの友人で、画家のオラフ・ハルトマンの葬儀のために書かれた作品... で、ロマン主義、真っ只中から時代が下った20世紀だけに、響き出すトーンは、ロマン主義から踏み出すような独特のヴィヴィットさを見せ、印象的。もちろん、葬送のしめやかさはあるのだけれど、ニールセンならではの色彩感が、表現主義的な表情に至るところもあり、小品ながらインパクトを生む。そして、同年に初演されたシベリウスの弦楽四重奏曲、「内なる声」(track.6-10)が続く... ヴァイオリンとチェロによる、古い聖歌のような、ユダヤの民謡のような素朴で憂いを含んだ印象的なメロディーのやり取りで始まり、ニールセンのヴィヴィットさが絶妙に引き継がれるような1楽章(track.6)は、シベリウスらしくロマンティック。なのだけれど、まさに「内なる声」が音楽に溢れ出すようなエモーショナルさがあって、表現主義的な訴える力を孕んでいる。かと思うと、2楽章(track.7)では、シベリウスならではのトレモロが折り重なり、瑞々しさが広がるも、そこから、終楽章(track.10)に向けて、全盛期のロマン主義を思わせる音楽が繰り広げられ、その手堅さが、確かな聴き応え生み、魅力。
という、グリーグ、ニールセン、シベリウスを聴かせてくれたエマーソン弦楽四重奏団。今さら説明するまでもない大ベテラン... 大ベテランだけれど、そういう雰囲気が微塵もないから凄い。相変わらずの冴え切った演奏!もう、全ての瞬間が目の覚めるようなサウンドを放っていて、ただただ鮮やか!一音一音を大切に、というより、一音一音こそ"命"といった意気込みを感じさせる演奏で、何となく雰囲気に流されるようなところが一切無く、最初から最後までが驚くほど新鮮。またその感覚に「北欧」を印象付けられ、3作品とも研ぎ澄まされて、鋭い美しさを放っている。音楽は、三者三様に、しっかりとヨーロッパなのだけれど、そこから「北欧」らしい清冽な表情を引き出していて、"INTIMATE VOICES"。「北欧」の「内なる声」が、アルバム全体に充ち満ちていて、ひんやりとしながらも熱いインパクトに貫かれ、魅了される。

INTIMATE VOICES EMERSON STRING QUARTET
GRIEG | SIBELIUS | NIELSEN


グリーグ : 弦楽四重奏曲 ト短調 Op.27
ニールセン : アンダンテ・ラメントーソ 「若き芸術家の棺の傍らで」 Op.58
シベリウス : 弦楽四重奏曲 ニ短調 Op.56 「内なる声」

エマーソン弦楽四重奏団
フィリップ・セッツァー(ヴァイオリン)
ユージン・ドラッカー(ヴァイオリン)
ローレンス・ダットン(ヴィオラ)
デイヴィッド・フィンケル(チェロ)

Deutsche Grammophon/477 5960




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