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異次元の"Passion"。まさに「熱情」。そんなエネルギーの塊! [before 2005]

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17世紀、南米発のダンス・ミュージック、チャコーナが、スペインを経由し、イタリアで熱狂的に迎えられると、バロックの作曲家たちも、その音楽を目敏く取り込み、やがてチャコーナは、シャコンヌ(フランス語読み... )へと洗練されることに... トルコが攻めて来れば、トルコ風が、フランス革命が勃発すれば、革命歌が交響曲に、民族主義の機運が高まれば、フォークロワが注目され、ジャズが大西洋を渡り席巻すれば、ヨーロッパのアカデミックな作曲家たちも、こぞってこの新しいブームに興味を示した。クラシックの歴史とは、そんな歴史である。流行に敏感で、ボーダーを越えることに、刺激を求めてすらいる作曲家たち... 今となっては、すっかりクラシックの内に取り込まれている音楽も、発表された当時は、スリリングにボーダー上で魅力をアピールしていたはず...
で、近頃はどうだろうか?クラシック=古典となったことで、ボーダーを越える機会は失われてしまった?いや、現代音楽では、また新たな動きがある?いや、もう、驚くべき越境を発見!という、マリア・ギナーンの指揮、オルケスタ・ラ・パシオンの演奏、スコラ・カントルム・デ・カラカスのコーラスによる、ゴリホフの聖マルコ受難曲(hänssler CLASSIC/98.404)を聴く。

バッハの没後250年を盛大に祝った2000年、このメモリアル・イヤーのために国際バッハ・アカデミー・シュトゥットガルトは、バッハの代表作、マタイ受難曲に因み、現代に新たな受難曲を生み出そうという大胆なプロジェクトを立ち上げる。イエスの受難は、4人の福音史家、マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネが綴った、それぞれの福音書によって伝えられる。そして、その福音書を素に音楽で受難を描き出したのが受難曲。バッハの受難曲はマタイとヨハネの2つしか残っていないが、国際バッハ・アカデミー・シュトゥットガルトは、4人の現代の作曲家を選び、それぞれにニュー・ミレニアムの受難曲を委嘱した。タン・ドゥンがマタイ、グバイドゥーリナがヨハネ、リームがルカ、そして、ここで聴く、ゴリホフの聖マルコ受難曲。タン・ドゥン、グバイドゥーリナ、リームという、現代音楽界の旬の作曲家に並んで選ばれたゴリホフという存在をそれまで知らなかったから、興味津々だった。
オスバルト・ゴリホフ(b.1960)。
アルゼンチン、ブエノスアイレス郊外のラ・プラタ(田園調布みたいな計画都市... )で、東欧にルーツを持つユダヤの家庭に生まれたゴリホフ。ラ・プラタのヨーロッパ的な洗練と、ユダヤの音楽と、アルゼンチンのタンゴの中で育ち、ラ・プラタの音楽院からエルサレム・ラビン音楽院を経て、ペンシルヴェニア大学では、異才(というより、異端?)、クラムの下で学んだと言うから、なかなか興味深い背景を持った作曲家だ。いや、聖マルコ受難曲に触れれば、まさに!納得の音楽である。つまり、タダモノではない。ヨーロッパ、ユダヤ、アルゼンチンが現代というフィールドで結ばれて、クラムに負けず、我が道を貫いて、クラシックからすると、びっくりするようなサウンドを生み出して来る。そんなサウンドで編まれた聖マルコ受難曲を初めて耳にした時は思わずのけぞった!これっていったい... というくらい、ブッ飛んでいる。今、自分が何を聴いているのかがわからなくなる強烈さ!
始まりは、ライヒを思わせるミニマルっぽいパルスに包まれながら、ニュー・エイジ的なトーンの中で、ラテンのような、アフリカンなようなリズムが刻まれるミステリスな第1曲、"Visión: bautismo en la cruz"。これが実に印象的で、惹き込まれてしまう。第2曲、"Danza del Pescador pescado"(track.2)では、コーラスが歌うプリミティヴなメロディーが対位法的に紡がれ、ワールド・ミュージックと見紛う様相を呈しながらも、構造としてはヨーロッパの古い形を用い、おもしろい展開を見せる。音楽はそのまま、第3曲、"Primer Anuncio"(track.3)へと続き、第7曲、"Unción en Betania"(track.7)、ベタニヤのシモンの家で、イエスの頭に高価な香油が注がれる場面へと盛り上がりを見せての第8曲、"¿Por qué?"(track.8)、人々がなぜそんな高価な香油を?!と、大騒ぎになるところで、音楽は、ズバリ、ラテン・ミュージック!でいいのか?!いいんです!というくらいに、もう開き直って繰り広げられるラテン受難曲... 場合によっては、ドン引きの局面だが、このラテン受難曲という形こそ、21世紀を迎えた今、大きな意味を持つ気がする。ギミックを極めるゴリホフの姿勢が、凝り固まったステレオタイプを叩き壊して、多少、乱暴であっても、各所で漂う、現代の閉塞を打ち破る鍵となるのかもしれない。
そんな、聖マルコ受難曲を繰り広げるのが、ベネズエラ出身のマエストラ、ギナーンの指揮による、この録音のために結成されたオルケスタ・ラ・パシオン。ゴリホフの独特なテイストを具現化するためのオーケストラだけあって、作品に対してゆるぎない。クラシック、現代音楽、そういう面倒臭い枠組みにまったく頓着しない、突き抜けたサウンドは、飄々とラテン・ミュージックを鳴らし、さらには、より広がりを以ってワールド・ミュージック的なプリミティヴさにも対応... それでいて、ニュー・エイジ的なとっぽさもさらりと響かせる。振り返ってみると、驚くべき器用さ... で、それを本能的に捉えるラテン気質... 凄い... そこに、鮮やかなコーラスが加わって... スコラ・カントルム・デ・カラカスの、かしこまることなく発せられる歌声の生気に充ちた表情は、この聖マルコ受難曲の本質を象徴するよう。さらに、ジャズ/フュージョンで活躍するブラジル出身のシンガー、ルシアーナ・ソウザ!その魅惑的な歌声は、受難曲に艶やかさを加えつつ、そこから不思議な深さを引き出すおもしろさ。
しかし、何が出てくるかわからない、ゴリホフ・ワールド... そこで展開される受難曲は、もはや異次元の"Passion"。まさに「熱情」。そんなエネルギーの塊。もう、バッハなんて知らない。いや、イエスすら見失ってしまったかも... けど、そうして初めて、深淵に辿り着けた気さえする。何なんだ、ゴリホフ!ギミックでありながら、こうも雄弁に語り掛けて来るとは...

Osvaldo Golijov La Pasión según San Marcos

ゴリホフ : 聖マルコ受難曲

ルシアーナ・ソウザ(ヴォーカル)
サミア・イブラヒム(ソプラノ)
レイナルド・ゴンザレス・フェルナンデス(バリトン)
スコラ・カントルム・カラカス、カントリア・アルベルト・グラウ(コーラス)

マリア・ギナーン/オルケスタ・ラ・パシオン

hänssler CLASSIC/98.404




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